研究実績の概要 |
近年我々は水酸塩化物質群の幾何学的フラストレーション磁性を発見した(Physical Review Lettersに論文2編、Physical Review Bに論文9編を既報)。更に、これら水酸塩化物において磁気・格子と誘電性の相関が普遍的に存在することを見出し、中でも六方晶系のCo2(OD)3ClとCo2(OD)3Br両物質でマルチフェロ的と思われる強誘電性を発見した「Phys. Rev. B 87, 174102 1-6 (2013)」。本研究は、このマルチフェロ的と思われる強誘電性のメカニズム解明と更なる応用性の開拓を目的にスタートした。 研究は、強誘電転移における顕著な水素の同位体効果から新奇強誘電性が水素原子の量子原子効果に深く関わっていると推察できたことから始まり、ミュオンスピン緩和(muSR)によって量子原子効果を直接実証し、水素・重水素原子のcritical slowing(臨界減速)と新奇強誘電性が同時に出現することが判明した。磁性イオンCo2+間磁気相関も同時に発達し、文字通りの新型マルチフェロ強誘電体であることが明らかとなった[Phys. Rev. B 95, 024111 1-10 (2017)など]。また、ラマン分光や中性子散乱などの測定で検証し、上記マルチフェロ性を支持する結果を得ている。さらに、上記物質の薄膜形成に成功し、強誘電膜として利用できる見通しが成立した。 さらに、幾何学的スラストレーション物質において、量子原子効果を示している水素の臨界減速によって水素の秩序化が起こり、非秩序→秩序型水素強誘電体になるというシナリオを広範な物質へ拡張することができることを見出した。
|