研究課題/領域番号 |
26289093
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
寺井 慶和 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (90360049)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シリサイド半導体 / 半導体物性 / 光物性 |
研究実績の概要 |
研究代表者は世界に先駆けて,シリコン光エレクトロニクス材料であるβ-FeSi2半導体のバンド構造をひずみにより変化させることに成功してきた.その研究成果を更に発展させ,本研究ではβ-FeSi2/SiGeヘテロ界面で発生するひずみを異方的にβ-FeSi2層へ導入することで,間接遷移半導体から直接遷移半導体への電子構造変化が可能であるか検証し,近赤外線領域の受発光特性の向上を目指す.H27年度は研究計画に基づき研究を実施し,下記の実績を得た. 【研究実績1】Ge濃度に依存した異方性ひずみの評価. β-FeSi2中のひずみを評価するために,本研究ではラマン分光法を用いた.しかし,β-FeSi2のラマン線については,その振動モードの同定がなされておらず,異方性ひずみの評価ができない状態であった.そこで,β-FeSi2エピタキシャル膜において偏光ラマン測定を行い,ラマンテンソルに基づいた解析によりAg, B3gモードの同定にはじめて成功した.そして,Si(001)およびSi(111)基板上に作製したβ-FeSi2エピタキシャル膜において,格子変形が異なる,すなわちひずみ状態が異なることに対応して,Agモードのラマンシフトが異なることを明らかにした.この結果により,Agモードのラマンシフトにより異方性ひずみの評価が可能となった.現在,Ge添加した試料においても評価を進め,Ge濃度に依存した異方性ひずみの評価を実施している. 【研究実績2】 異方性ひずみ導入に伴うバンド構造変化の検証. β-FeSi2/SiGeエピタキシャル膜において,変調分光法により直接遷移エネルギーを求めバンド構造変化について検証した.その結果,SiGe上のβ-FeSi2初期成長の際,方位の異なるドメインが形成してひずみが緩和し,期待したバンド構造変化が得られないことが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画は予定通り実施され,おおむね期待通りの成果が得られた.特に,ラマン分光法により,異方性ひずみの評価手法を確立した点で,学術的に意義の高い成果が得られたといえる.Si基板上のβ-FeSi2エピタキシャル方位を変えることで導入される異方性ひずみが制御できることをあきらかにした点で,今後のGe濃度に依存したひずみ量の評価が計画通り実施できると考えられる. 当初予期しなかった結果として,SiGe上のβ-FeSi2初期成長の際,方位の異なるドメインが形成してひずみが緩和してしまう問題が判明した.これにより,成長条件の最適化が必要不可欠となり,新たな課題として取り組む必要がある.この課題にはすでに取り組んでおり,成長温度と組成制御の精密制御によりひずみ緩和の問題が克服できる見込みがある. 以上から,本研究はおおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,研究の過程で見つかった新たな課題に取り組むとともに,当初の研究計画を予定通り進めていく. 【課題1】SiGe上のβ-FeSi2初期成長条件の最適化.成長温度と組成制御の精密制御により,方位の異なるドメイン形成を抑制し,異方性ひずみの導入量を増加させる. 【課題2】Ge濃度に依存した異方性ひずみ量の評価.これまでに確立したラマン分光法による評価を用い,Ge濃度に依存して異方性ひずみが変化することを実証する. 【課題3】異方性ひずみ導入に伴うバンド構造変化の実証と,直接遷移化の検証.作製したβ-FeSi2/SiGeエピタキシャル膜において,変調分光法によりバンド構造変化を検証する.その結果を成膜条件にフィードバックし,直接遷移化に適した異方性ひずみの導入を目指す. 【課題4】SiGe/β-FeSi2/SiGeヘテロ構造を活性層とした,受発光デバイスの作製と動作検証.異方性ひずみ導入に伴う,光学特性の向上について検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ラマン分光法による異方性ひずみの評価方法を確立するため,多くの時間が必要となった.そのため,成膜にかけられる時間が少なくなり,消耗品の購入量が減少したため次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はまず新たに見つかった課題として,β-FeSi2/SiGe初期成長条件の探索に取り組む.そのため,成長回数がかなり増える予定であり,それに必要な消耗品として予算を執行する計画である.
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