研究課題/領域番号 |
26289095
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
榊 裕之 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 学長 (90013226)
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研究分担者 |
大森 雅登 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 嘱託研究員 (70454444)
Vitushinsk Pavel 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究補助者 (30545330) [辞退]
秋山 芳広 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究補助者 (60469773)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HEMT / AlGaN/GaN / AlGaAs/GaAs / ヘテロ接合 / ピエゾ抵抗 / 歪み / 表面準位 / 界面準位 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、種々のGaN系やGaAs系HEMTを含むヘテロ接合ウエーファを短冊状に成形し、両端を固定の上で中央部に力を加えることで、接合面に沿って歪みを加えた時に、試料のコンダクタンスや抵抗が変化するピエゾ抵抗効果を、理論・実験の両面から詳しく調べ、以下に記す知見を得た。 (1)歪の作用により結晶内の分極状態が変化すると、試料内では電界E(z)やポテンシャルV(z)の分布が変化する。この時、ヘテロ接合に沿う伝導チャネル中の2次元電子の面密度Nsが増減するだけでなく、ある種の試料では、隣接する障壁層内のキャリアの密度も変わることを見出した。特に、この現象が、n-AlGaAs/GaAs系の試料で重要であることを示すとともに、ピエゾ抵抗素子の感度向上に活かす可能性も見出した。 (2)歪の作用により、試料内の電界分布E(z)やポテンシャル分布V(z)が変化すると、2次元電子の面密度Nsに加え、移動度μも変化することを前年度に見出した。今年度は、その仕組みを明らかにするために、AlGaN/GaN系HEMTのチャネル内の2次元電子の移動度の電界依存性を理論・実験の両面から詳しく調べた。特に、低温で、界面散乱が重要となり、その電界依存性が強いため、この効果が顕著になることを示した。 (3)GaAs系HEMTでは、裸の表面でも、金属ゲート電極膜を形成した表面でも、局在準位の影響により、フェルミ準位がエネルギーギャップの中央付近に固定されると言われているが、この構造に面内歪を印加した場合、表面に生じる分極電荷への遮蔽作用が、金属ゲート電極膜の有無により、大きく異なるはずである。本年度は、この点を調べるための実験を行い、両者の違いから、表面準位の密度を推定する試みを行った。実験では、単純なモデルからは説明が困難な事実も見出されており、最終年度にさらに詳しく調べる必要が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、GaN系HEMTを軸に、GaAs系やInGaAs系のHEMTの中核部となるヘテロ接合伝導層を対象に、接合面と並行方向に歪みを加えた時に生じる電気抵抗の変化(ピエゾ抵抗効果)を理論・実験の両面から調べ、発現機構の解明を図るとともに、表面・界面準位の新評価法としての活用可能性に関し、以下の成果と知見を得てきた。 (A) AlGaN/GaN系HEMTでは、歪の作用でAlGaN層とGaN層内にピエゾ分極が生じるが、両者に違いがあるため、界面に分極電荷eNintが発生する。この場合でも、AlGaN層上の表面とGaN層の下の下側表面にも分極電荷が生じるため、系全体としては電荷の総量は保たれる可能性がある。但し、仮に表面準位が多いと、表面での分極電荷が遮蔽され、界面伝導層内の2次元電子の密度Nsは、界面分極電荷の変化Nintに応じた変化を示す。これが、GaN系HEMT構造でのピエゾ抵抗効果の主要因である。 (B)本研究で、この効果をより詳しく調べ、一連の知見を得た。まず、(B1)AlGaAs/GaAs系HEMTでも、面内の一軸歪みの下では、結晶の対称性が崩れて、分極電荷が生じることを見出した。また、(B2)この系では、ヘテロ接合に沿うGaAs伝導層中の2次元電子の面密度Nsが増減するだけでなく、隣接するAlGaAs障壁層内の電子密度も変わることを見出した。さらに、(B3)歪印加の下では、試料内の電界分布E(z)が変化し、2次元電子の面密度Nsに留まらず、移動度μも変化することを見出した。また、(B4)その仕組みを明らかにするため、AlGaN/GaN系HEMTのチャネル内の2次元電子の移動度の電界依存性を詳しく調べ、低温で、界面散乱が重要となり、その電界依存性が強いため、この効果が顕著になることを示した。さらに、(B5)HEMT素子の表面を、裸にした場合、金属ゲート膜で覆う場合、絶縁膜で覆う場合の3通りの試料を作り、それらの相互比較により、表面準位や界面準位を定量評価する手法の基本原理を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、GaN系HEMTを中心に、関連のGaAs系HEMTやInGaAs系HEMTに対し、ヘテロ界面に沿った歪を与えた時の抵抗変化(ピエゾ抵抗効果)と移動度変化を独立に計測し、歪によって生じる分極電荷が、伝導層中の2次元電子の面密度と散乱頻度をどのように変化させるかを系統的に調べ、同時に、結晶の表面や界面に局在する表面準位や界面準位の充放電の影響を調べ、局在準位の定量評価法の確立を図ることを目的としている。 本研究は、ほぼ当初計画の通りに進めるが、GaN系HEMTとGaAs系HEMTの相互比較が重要なため、平成26年度と27年度には両者の研究を並行して進めるように、計画を多少変更した。また、初年度の研究により、GaAs系のHEMTでは、AlGaAs内の電子数の変化が、実効的な移動度の変化をもたらすことが判明したため、この寄与が無視できる試料の研究の形成と解明を行うとともに、この効果を強めることで、歪を感度良く計測できる素子の可能性を調べる研究も進める。この観点からは、移動度を異にする複数のキャリアが存在する場合の計測・解析手法の研究も進める。また、InGaAs系HEMTに関しても、測定と解析を加速させる。
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