研究課題/領域番号 |
26289098
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
染谷 隆夫 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90292755)
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研究分担者 |
高宮 真 東京大学, 大規模集積システム設計教育研究センター, 准教授 (20419261)
関谷 毅 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (80372407)
櫻井 貴康 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90282590)
更田 裕司 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30587423)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ビッグデータ / フレキシブルデバイス / 有機トランジスタ / センサシステム / アナログ集積回路 |
研究実績の概要 |
有機トランジスタをアナログ集積回路へ応用するためには、①雑音を評価し、低減する技術、②素子特性の不均一性を低減(補正)する技術、③温度など環境変化に対する特性変化を低減する技術が重要である。本年度は、それぞれの項目について、原理にまで踏み込んでデバイス物理を明らかにして、それぞれの性能を向上するための研究を推進した。 センサ用途で重要なアナログ集積回路としては、増幅器やAD変換回路などが挙げられる。その中でも初段の増幅器は、システム全体の特性を決定付ける重要な意味を持つ。有機トランジスタの増幅器については、我々の研究グループ、スタンフォード大学、IMECのグループが相次いでIEEE/ISSCCで発表しているが、トランジスタの微細化によって利得と帯域を改善する点が報告の中心であった。しかし、増幅器は、利得、帯域、雑音特性の3つの性能指標によって総合的に評価しなければいけない。有機トランジスタの雑音については、開発初期に2、3の報告があるという程度で、また当時の素子特性も良くなかった。 本研究では、有機トランジスタの雑音メカニズムを解明すると同時に、その雑音低減の手法の確立を目指した研究を推進した。特に、有機増幅器は、低周波数領域での用途が中心であり、フリッカ雑音(1/f雑音)の理解が重要である。フリッカ雑音は、トラップ密度など界面の品質に依存する。そこで、様々なプロセス条件下で製造されたトランジスタについて、系統的に雑音レベルを計測した。その結果、有機トランジスタのフリッカーノイズの原因が移動度の揺らぎにあることを示唆する結果を得た。特に、Hoogeパラメータを0.066から0.030程度まで軽減することに成功した。今後は半導体層の結晶性向上に注目してノイズの改善を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
増幅器のノイズを減らすことに成功しており、当初予定通り、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
高信頼性のセンサを実現するため、有機集積回路の故障モードを解明し、その解決手法を確立する。まず静電気による故障を解決するため、有機デバイスでフレキシブルな静電気保護回路を実現する。このために、高耐圧かつ大電流を遮断できる有機ダイオードを実現する。また宇宙線は通常のデバイスでは回路不良とソフトエラーの原因とされるので、その有機トランジスタに与える影響を評価する。 静電気放電(ESD)は、シリコンデバイスのような半導体デバイスにおいても、未だに誤動作等の原因として多くの問題を起こしている。筆者らはフロリダセントラル大学のグループと共同で、世界で最初に有機トランジスタのESDの影響を評価した。ESDは製造時と使用時の対策が必要だが、ヒトが直接触れるセンサの場合には使用時におけるESD対策が不可欠である。 そこで、有機デバイスでフレキシブルな静電気保護回路を実現する。静電気保護回路の基本は、絶縁破壊が起きやすいゲートに外部から静電気が印加されたとき、遮断経路によってチャージを電源ラインに迂回させることにより、高い電位がゲートへの直接印加を防止することである。この特性を決めるのが、ESD保護ダイオードである。 有機ダイオードの研究は多くの報告があるが、電子回路用途としては電源の整流回路としてわずかな報告がある程度である。しかし、ESD保護回路用途のダイオードとしては耐圧と大電流密度が必要であり、この指標で格段の性能向上が不可欠である。 本研究では、ショットキー接合型の有機ダイオードに工夫を加えて性能を向上する。特に、アノード側の電極金属表面にバッファ層を挿入することによって注入障壁を下げ、大電流化を進める。また、縦方向に移動度が大きな半導体材料の素子応用を進め、さらなる大電流化を目指す。さらに、カソード側に薄い障壁層を挿入して、逆バイアス側の漏れ電流を低減する。
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次年度使用額が生じた理由 |
様々なプロセス条件下で製造されたトランジスタについて、系統的に雑音レベルを計測し、その結果、有機トランジスタのフリッカーノイズの原因が移動度の揺らぎにあることを示唆する結果を得た。今後は半導体層の結晶性向上に注目してノイズの改善を進める必要があり、材料等の検討に至ったが、一部の材料は調達に数ヶ月要するため研究費を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
半導体層の結晶性向上に注目してノイズの改善を進めていくため、必要材料の選定及び製造を進めていく。
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