研究課題/領域番号 |
26289098
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
染谷 隆夫 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90292755)
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研究分担者 |
高宮 真 東京大学, 大規模集積システム設計教育研究センター, 准教授 (20419261)
櫻井 貴康 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90282590)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ビッグデータ / フレキシブルデバイス / 有機トランジスタ / センサシステム / アナログ集積回路 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、高信頼性のセンサを実現するため、有機集積回路の故障モードを解明し、その解決手法の確立に取り組んだ。まず、静電気による故障を解決するため、高耐圧かつ大電流を遮断できる有機ダイオードを開発し、有機デバイスによるフレキシブルな静電気保護回路の実現を目指した。また、宇宙線は、通常の半導体デバイスでは回路不良とソフトエラーの原因とされるため、その有機トランジスタに与える影響を評価した。 我々は過去に、フロリダセントラル大学のグループと共同で、世界で最初に有機トランジスタにおける静電気放電(ESD)の影響を評価している。ESDは製造時と使用時の両方で対策が必要であるが、ヒトが直接触れるようなセンサの場合には、特に使用時におけるESD対策が不可欠である。 静電気保護回路の基本は、絶縁破壊が起きやすいゲートに外部から静電気が印加されたときに、遮断経路によってチャージを電源ラインなどに迂回させることによって、高い電位がゲートに直接印加されるのを防止することにある。この保護回路の特性を決めるのが、ESD保護ダイオードである。 有機ダイオードの研究はこれまでにも多くの報告があるが、有機ELなどの光学素子が中心で、電子回路用途としては電源の整流回路としてわずかな報告があるのみである。しかしながら、ESD保護回路用途のダイオードとしては、耐圧と大電流密度が必要であり、この指標での格段の性能向上が不可欠である。 そこで本研究では、ショットキー接合型の有機ダイオードに工夫を加えて性能の向上に取り組んだ。特にアノード側の電極金属表面にバッファ層を挿入することによって注入障壁を下げ、大電流化を進めた。また、縦方向に移動度が大きな半導体材料の素子応用を進め、さらなる大電流化を目指した。さらに、カソード側に薄い障壁層を挿入して、逆バイアス側の漏れ電流の低減化を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高耐圧かつ大電流を遮断できる有機ダイオードの性能向上に成功しており、当初の予定通り、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、有機アナログ集積回路の高性能化と高信頼性化を目指して、有機トランジスタのデバイス物理と故障モードのモデリングなど、学理の構築を中心に研究を進めていく。あくまでも最高性能の有機集積回路で有用性を実証していく計画である。 また、有機増幅回路と有機静電気保護回路を集積化したフレキシブル有機センサシステムを試作して、モデルの検証を進める。センサシステムは、微小な圧力変化による電気信号を有機増幅回路で増幅する装置を想定しており、様々な環境下で有機アナログ集積回路の信頼性と性能を計測することにより、フレキシブル有機センサシステムの有用性をデモンストレーションしていく予定である。 静電気のほかにも、通常の半導体デバイスでは宇宙線による故障モードが知られている。具体的には、宇宙線によって界面などに新しい準位が作られることによる損傷モードと、宇宙線が通過した瞬間だけ誤作動を起こすソフトエラーである。メモリのソフトエラーも問題だが、ロジックもソフトエラーを起こす。この宇宙線の問題に対して、通常の半導体デバイスではこれまで様々な対策が取られてきたが、有機デバイスでは完全に未知の課題となっている。本研究では、有機半導体の放射線照射時の欠損について、結晶構造解析を通じで調べていく計画である。 さらに、有機デバイスの経年変化については、封止膜の性能が大きな決定因子である。我々は、これまで独自の高性能な封止膜によって、有機トランジスタの寿命を延ばしてきた。この研究の過程で、ビアホールからのガスバリア漏れが信頼性を阻害しており、この効果は超薄型フィルムの場合には顕著であることなどを明らかにしてきた。今後、本研究では、実装に伴う劣化メカニズムを明らかにすることによって、有機集積回路の信頼性を飛躍的に向上させていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、高信頼性のセンサを実現するため、有機集積回路の故障モードを解明し、その解決手法の確立を目指した。今後は、集積回路の高性能化を更に進めて、フレキシブル有機センサシステムを試作していく計画であるが、研究課題を円滑に進行していくためには、装置の増設改造が必要不可欠である。このことをうけて早速に検討を開始したが、仕様や金額面での調整から、次年度に使用して、購入納品を進めることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
半導体デバイス・アナライザの高速測定ユニットを増設改造することによって、集積回路の高性能化を進め、フレキシブル有機センサシステムの有用性を検証していく予定である。
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