研究課題/領域番号 |
26289104
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨士田 誠之 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (40432364)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / テラヘルツ / 集積回路 |
研究実績の概要 |
本研究では,電波と光波の境界領域の周波数を有するテラヘルツデバイスを小型集積化するための基盤技術として,微細構造フォトニック結晶に着目し,これまでに世界最小の伝搬損失の実現してきた伝送路の研究を発展させるとともに,分合波および外部との入出力といった機能を集積化したテラヘルツ波平面回路の実現を目指している. 今年度は,フォトニック結晶の基本構造として,2 次元円孔三角格子を高抵抗シリコンウエハへ形成した構造を採用した.対象周波数を大気によるテラヘルツ波の吸収の影響が比較的小さく,応用研究も先行する0.3 THz 帯と設定した.電磁界解析の結果より,基本となるフォトニック結晶の格子定数は240 μm となった.このフォトニック結晶に一列線欠陥を形成した伝送路に対して,通信特性に関わるパラメータである群速度分散を電磁界シミュレーションから算出した.一方,伝搬長が異なる伝送路をマイクロマシンの加工プロセスで作製し,ベクトルネットワークアナライザで群遅延を測定した.その結果,伝搬長が長いほど,群遅延が増大するという理論とよく一致した結果が得られた. 分合波機能に関しては,平行に2本並べた伝送路間の方向性結合のメカニズムを利用した構造に着目した.波長サイズのコンパクトさを保ちながら,光波領域での先行研究よりも比動作帯域の広い構造を設計し,0.32 THz帯と0.33 THz帯という周波数の違いで合分波されるデバイスの作製に成功した. 外部との入出力機能として,周期600 μmの1 次元周期構造をもつフォトニックカプラと前述のフォトニック結晶伝送路がテーパー構造を介して接続された構造を作製した.導波路を伝搬してくるテラヘルツ波がフォトニックカプラから自由空間に出力される様子をテラヘルツ分光計で評価したところ,0.3 THz帯で入出力するというシミュレーション良く一致した特性が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,テラヘルツ波フォトニック結晶を用いた伝送路の通信帯域の周波数依存性の解析,フォトニックカプラと伝送路の融合および,方向性結合器を用いた合分波器の動作実証が主な研究目的であった. 伝送路に関しては,通信帯域の目安を与える群遅延の周波数依存性に関して,電磁界シミュレーションから算出した値と実験値が良く一致した.そして,データ通信速度の限界値が,前述のシミュレーションとベクトルネットワークアナライザから見積もった通信帯域と良く一致し,シミュレーションによって,通信速度を見積もる手法を確立することができたので,前述の目的を達成することができたと言える. フォトニックカプラに関して,伝送路とカプラをテーパー形状で接続した構造を作製した.テラヘルツ分光系にて作製した試料を評価した結果,伝送路中を伝搬するテラヘルツ波がカプラを通じて,確かに自由空間へ出力されている様子が,シミュレーションで設計した0.3 THz帯において確認できたため,当初目的を達成することができたと言える. 合分波器に関しても,広帯域特性が得られる構造を新たに設計し,0.3THz帯において,サンプルを作製した.これをテラヘルツ分光系を用いて,透過特性の周波数依存性を測定した.その結果,周波数の違いでテラヘルツ波の経路が変化するという合分波動作を実証することに成功し,当初目標が達成された. 以上のように,今年度は研究目的が達成され,おおむね順調に研究を推進することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を受けて,今後も引き続き,対象周波数に関しては,大気によるテラヘルツ波の吸収の影響が比較的小さく,応用研究も先行する0.3 THz 帯とし,フォトニック結晶を基盤技術とするテラヘルツ波平面回路の研究を推進する.そして,フォトニック結晶伝送路,カプラ,合分波器の動作帯域を中心に特性向上を目指し,通信実験を行う. 伝送路に関して,孔径の調整,格子点のシフトや分散補償構造の導入による分散曲線の調整等を行うことで,今年度確立したシミュレーションを活用して低分散の構造を探索し,数10GHz の帯域をもつ構造を得ることを目指す.また,十分な広帯域特性を容易に得るため,放射損失が無損失ではない漏れ領域を利用することも検討する.以上の検討の結果,得られた構造をファンドリサービスで試料を作製し,テラヘルツ波分光計および通信系で損失およびビットレートの周波数特性を評価する. フォトニックカプラに関して,動作帯域の拡大のため,2 次元周期性の導入や周期を揺らがせたようなチャープ的構造を導入することも検討する. 方向性結合器を用いた合分波器に関しては,広い周波数帯にわたって結合長が一定になり,広帯域動作が得られる構造を,例えば孔径などを調整し,フォトニックバンド計算で探索し,具体的なモデルに対して,電磁界シミュレーションを行い,その結果得られる構造をファンドリサービスで作製し,テラヘルツ波分光計および通信系で損失およびビットレートの周波数特性を評価する. さらには,フォトニックカプラと合分波器を融合した集積構造の検討も進め,実際にフォトニックカプラから入出力されたテラヘルツ波が合分波される様子を観測することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
学術研究助成基金助成金に関して,2014年11月の時点での研究の進行状況を鑑みて,100万円の前倒し支払い請求を行ったが,年度末の時点で,結果として,当初計画と同様の執行状況となったため,ほぼ前倒し支払い請求分に相当する分,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように実質的にほぼ当初計画通りとなったため,次年度には当初計画のように執行する計画である.
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