本研究の目的は,トラップを“密度”で表す従来のマクロ的な扱いから脱却し,ナノ構造界面における個々のトラップの分離検出技術,および,個々のトラップの物性評価技術を確立し,従来のマクロ的見地を基盤としたトラップ物理に新たな視点を加えて新展開を計ることである.この目的達成のため,トラップとしてはMOS界面トラップ,評価技術としてはチャージポンピング(CP)法を用いる.
今年度は以下の研究成果を得た. 1.トラップ間クーロン相互作用がトラップ間距離50nm程度以下になると顕在化することを実験的に明らかにした. 2.CP電流が,①1トラップ当たりドナー型とアクセプタ型の2つのエネルギー準位に関与していること,②トラップのエネルギー準位位置に依存した0~1の値をもつ因子,および,③トラップ間相互作用に依存した因子,を考慮した新たなCP理論を構築し,従来CP理論に基づくCP電流式を本質的に改良した. 3.前年度,単一界面トラップのエネルギー密度分布(DOS)がPb0センターのエネルギー密度分布と酷似していることを明らかにしたが,このことは,界面トラップのエネルギー密度分布がU字型であるとの従来の定説に疑問を投げかけている.そこで,ホットキャリア・ストレス(HCS)前後における界面トラップのDOSの変化をCP法で評価した(測定温度範囲: 200~393 K).その結果,初期状態でも“U字型”分布ではなく,二つのピークを有するPb0センター準位が支配的であり,HCS後はPb0センターがさらに発生してこの傾向がより顕著になることを明らかにした.
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