研究課題/領域番号 |
26289109
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡本 晃一 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50467453)
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研究分担者 |
只友 一行 山口大学, 理工学研究科, 教授 (10379927)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズモニクス / 光デバイス / 発光ダイオード / 窒化物半導体 / 量子井戸 |
研究実績の概要 |
(1). これまでにP+GaN層のドーピング量、膜厚を最適化することによって、電流注入によっても表面プラズモン(SP)増強効果を示すプラズモニックLEDの試作に成功した。しかし発光の増強度が予想より低かったため、金属ナノ構造の最適化に取り組んだ。クラスター計算の環境を整え、電磁場解析計算をより大規模に効率よく行った。その結果、金属に銀を、透明電極にITOを用いている限り、これ以上の高効率化は困難であり、新たな金属種、デバイス構造を検討する必要があることがわかった。
(2). 光取り出し構造を最前するためのサファイア加工基板(PSS)を用いて、更なる増強が得られた。このことは、SP共鳴の効果が光取り出し効率の改善に加え、内部量子効率の改善に寄与していることを示している。そこで発光機構解明のため時間分解発光測定を行った。その結果、励起子とプラズモンの相互作用によるPurcell効果によって発光寿命が短縮され、Purcell増強因子は~3に達していることがわかった。
(3). さらに短波長領域でSP共鳴を示す可能性のあるアルミニウム、インジウム、タンタルを用いて、ナノ微粒子構造を作製した。どの金属種においても粒径数十nmのナノ微粒子が形成され、紫外波長域に局在SP共鳴に起因すると考えられるピークが確認できた。中でもタンタル微粒子は最短波長の~200 nmにピークを持ち、新しい深紫外プラズモニクス材料として非常に有望であることがわかった。また青色発光増強には銀の代わりにアルミニウム、インジウムのナノ微粒子を用いることが有効である可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標であるプラズモニックLEDの試作にはすでに成功している。あとは実用性に耐えうるデバイスに改良するために、金属ナノ構造、デバイス構造の最適化を行い、さらなる高効率化を達成することが肝心である。 銀ナノ微粒子構造については、作製条件によって粒径100~300nm、波長450~750nmの範囲で調整することに成功し、発光増強効果の最適化にも成功した。さらに短波長側でSP共鳴を達成するために、アルミニウム、インジウム、タンタルを用いて、薄膜蒸着と熱処理だけの簡単な方法によって、大面積にナノ微粒子を高密度に作製することにも成功した。特にインジウムナノ微粒子が他の金属よりも短波長領域でSP共鳴を示すことを初めて明らかにした(国内会議で発表。論文準備中)。 試作したプラズモニックLEDは、光取り出し効率と内部量子効率の両方が改善されていることを明らかにした。それにより、SP共鳴による効果はもともと発光特性に乏しい材料だけでなく、ある程度高い発光特性を持つ材料をさらに高効率化するのに有益であることを示した(未公開)。 これまでInGaN系材料で観測されてきたのは励起子-プラズモン間の弱結合によるPurcell効果であるが、二硫化モリブデン等の単原子層構造に発生する振動子強度の強い励起子と金属ナノ構造を用いれば、励起子とプラズモンが強結合したプレキシトンが観測されることを発見した(Advanced Materialsで発表)。今後これを利用した新たな光学素子の開発が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、得られた高効率発光の詳細な機構を解明するとともに、この構造に基づいた実用に耐えうるデバイス開発に取り組む。例えばこれまで最も強い増強効果が得られた金属ナノグレインによる伝搬型SP共鳴を用いると、本デバイスにおいては発光は著しく減少する。この理由が解明できれば、伝搬型SP共鳴に基づくより効果的な高効率化が達成できる可能性がある。また時間分解発光測定によって得られたPurcell増強因子から、内部量子効率~54%の高効率発光が得られていることが示唆されたが、正確な発光効率の値を積分球等を用いて測定する必要がある。 SP共鳴による高効率化とナノ構造の関係を詳細に理解するために、ナノスケールの光学特性評価方法として、原子間力顕微鏡(AFM)のチップを用いたチップエンハンス型近接場光学顕微鏡(TE-SNOM)を構築した。それを駆使して金属ナノ微粒子近傍の局在電場効果やプラズモンカップリング効果をナノ空間分解能で観測する。さらに導電性チップからの電流注入による発光をナノスケールで観測し、金属ナノ微粒子存在下でのオーミック特性などを解析する。あるいは逆に光照射下における金属ナノ微粒子の導電性を測定し、プラズモニクスとエレクトロニクスをつなぐ基盤の構築を目指す。それにより、プラズモニクスのLED応用のみならず、太陽電池やセンサーとしての応用においても有用な知見が得られると期待している。今年度の予算は主にそのための装置開発・改良、光学系の構築に使用する これらにより構造の最適化が達成できれば、デバイス作製プロセスに進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度にチップエンハンス型近接場光学測定を構築し、28年度にそれにナノ電流特性評価の機能を追加するために予算を用いることを計画していた。27年度において予定通りチップエンハンス型近接場光学測定を立ち上げ、その光学系構築のために予算を使用した。しかし27年度内に予定していた、広い波長域で使用するための光学系の構築、非透明試料に適用するための光学系の構築といった装置の改良が一部間に合わず、次年度への持ち越しになった。
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次年度使用額の使用計画 |
高効率プラズモニックLEDの開発に置いて最も重要なのは、有効なオーミックコンタクトを保ったままで、P層をいかに薄くできるかであることがわかってきた。そのためには発光層、電子ブロック層(EBL)、正孔ブロック層(HBL)層を最適化し、SP共鳴の効果とデバイス性能の両方を保つデバイス構想の最適化が必要である。これまでに20nmの薄膜化に成功したが、本研究期間内に10nmの薄膜化を達成できれば、有効なSP共鳴効果を保ったままでPN接合を作製することが可能になり、良好なオーミックコンタクトによって初めての実用化レベルでの高効率プラズモニックLEDの開発につながると期待している。そこで28年度は、これまでに立ち上げたチップエンハンス型近接場光学測定に、ナノ電流特性評価の機能を追加する。
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