研究課題/領域番号 |
26289114
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
安永 守利 筑波大学, システム情報系, 教授 (80272178)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 信号品質 / Singal Integrity / プリント基板 / 遺伝的アルゴリズム / 共鳴 |
研究実績の概要 |
これまで,セグメント分割伝送線の周波数領域での解析は行われておらず,学会等でも周波数領域でのその特徴について多くの質問を受けていた.これに対し,本年度,周波数領域解析で最も重要とされるsパラメータをはじめて実測で得ることができた.これにより,本伝送線の設計手法である“遺伝的アルゴリズム”がどのような最適化(学習)を行っているかが明らかになった.具体的には,対象とするディジタル信号伝送の基本周波数,およびその高調波において,反射波s11を低減し,透過波s21を増加するように本伝送線の各セグメント幅と長さを最適化するように(準)最適化されていることが分かった.なお,sパラメータについては,500Mbpsのスケールアップ試作伝送線を作成し,実測を行った.また,シミュレータによるsパラメータ測定も行い,実測とシミュレーションがほぼ一致することを確認できた. これまで,セグメント分割伝送線の設計には,1本当たり,10時間~20時間の計算時間(設計時間)がかかっていた.これは,遺伝的アルゴリズムの各世代において,毎回,回路シミュレータ(HSPICE)を起動し回路シミュレーションを行う必要があることが原因である.一方,このシミュレーションは,遺伝的アルゴリズムの各染色体(ゲノム)毎に並列実行することが可能である.これより,各染色体をマルチスレッド化して計算することにより,計算時間を従来のほぼ1/2まで低減することが可能であるとの見通しを得ることができた. なお,遺伝的アルゴリズムを用いずに,決定論的な設計手法で信号品質改善が可能な伝送線を設計できるのではないかとの発想が生まれ,その予備実験にも着手した.一部,シミュレータを用いる必要があるが,従来より約1.2倍程度の信号品質改善が可能な決定論的設計手法が実現できる見通しを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
周波数領域(sパラメータ)におけるセグメント分割伝送線の解析が,試作による実測も含めてほぼ順調に進んだ.特に,クロック信号入力に対するsパラメータ特性は,シミュレーションとも良く一致して,“遺伝的アルゴリズムは何を最適かしているのか”という問いに周波数領域から定量的な解答を導くことができた.一方,ランダム信号入力に対しては,一部,セグメント分割伝送線でも信号品質改善が困難な系もあることがわかり,その理由をsパラメータから解析する必要がある.この点で,セグメント分割伝送線の解析はほぼ予定通り進んでいるものの,一部,未解決な課題も残っている. 一方,設計時間の高速化については,マルチスレッド化が効果的に働く見通しを得ることができ,H28年度(最終年度)中にはプログラム実装が終了し,予定通り高速化(2倍の高速化)が可能であると考えられる. また,研究着手当時予定していなかった“決定論的な設計手法(印伝的アルゴリズムを用いない設計手法”についてアイデアが生まれ,新たな研究展開ができる見通しを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は最終年度となる.このため,これまでの成果に基づき,共鳴セグメント分割伝送線の有効性を総合的に評価する.具体的には,3Gbpsから8Gbpsのデータ転送レートを対象として,時間空間(アイパターン)と周波数空間(sパラメータ)の両面からの解析を行う.また,伝送損失に反射による信号品質低下が加わった系(伝送線の途中に寄生容量や寄生インダクタンスが入った系)についてもセグメント分割伝送線による改善効果を評価する.計算の高速化については,スレッド並列化をプログラムとして実装し,その効果を実測するとともに,プリント基板配線設計CADへの適用可能性を評価する. さらに,セグメント分割伝送線をプリント基板配線だけではなく,集積回路チップ内配線やシリコンインターポーザ配線への適用へ展開すべく,その基礎設計を行う(集積回路チップやシリコンインタポーザ用配線の試作は,本研究期間内にはできないが,シミュレーションを行うことで次のステップへ発展展開する予定である). また,決定論的な設計手法で,信号品質改善が可能な伝送線を設計できる見通しを得ることがでた(これは,研究着手当時は予測できなかった).この設計手法についても,シミュレーションと基礎試作を行い,次期ステップに発展展開する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
セグメント分割伝送線の試作予定基板(複数枚)の中に,一部,目標値よりも低い(信号品質改善効果が目標値以下)設計結果となったものがあり,このため,本年度内に試作発注に至らなかった試作予定基板があった.そのため,試作費用の一部に未使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
目標値以下になった一部の試作基板について,再設計の結果,目標値を達成できる見通しを得ることができた.これより,本年度未使用となった試作費を,次年度の試作費に当てる計画である.
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