研究課題/領域番号 |
26289120
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
上田 哲也 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (90293985)
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研究分担者 |
澤田 桂 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (40462692)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メタマテリアル / 負屈折率 / 非相反回路 / 円偏波 / ビーム走査 / アンテナ |
研究実績の概要 |
本研究では、電磁メタマテリアルの次世代無線通信技術、センシング技術への応用を目的として、偏波回転機能を併せ持つビーム走査アンテナの構成法の確立および実験による動作実証を目指す。 順方向と逆方向で伝搬特性が異なる「非相反性」と、特異な波動伝搬を可能とする人工構造体「メタマテリアル」を融合させた非相反メタマテリアルを用いることにより、伝搬方向を変えるだけで、実効屈折率を正から負へと切り替えることができる。この非相反メタマテリアルからなる伝送線路共振器は、従来の半波長共振などとは異なり、共振周波数が共振器サイズによらないので、共振器形状、サイズが自由に設定でき、さらに電磁界分布は、特定方向に伝搬する進行波と同じ特徴を持つ。この線路上の位相勾配を利用したビーム走査アンテナに関して実施期間内に得られた研究成果を以下に示す。1)非相反CRLHメタマテリアルを用いたビーム走査アンテナでは、ビーム走査角に相当する線路の非相反性をより大きくすることが望ましい。本研究では、非相反性の増大をもたらす導波路構造の構成法として、線路幅の大きなCRLH線路を提案した。数値計算の結果、特性インピーダンスは、50Ωから大幅に低下するものの、位相定数に見られる非相反性の大きさは、微小な場合に相当する漏れ波領域だけでなく、非常に大きな非相反性に相当する導波領域においても動作可能であることがわかった。2)従来の擬似進行波共振アンテナの応用例としては、直線偏波のビーム走査が既に知られていたが、円偏波放射は実現されていなかった。これに対して、擬似進行波共振器の形状としてスプリットリング型を採用し、さらに線路上の位相勾配を最適に選ぶことにより、擬似進行波共振による円偏波放射が可能となり、さらに線路の非相反性の符号を入れ替えることにより、偏波回転方向を切り替えることができることを電磁界シミュレーションにより示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの非相反CRLH線路では、実効屈折率に現れる非相反性の大きさは、擬似進行波共振アンテナのビーム走査角でせいぜい±30度程度に相当する大きさしか持たなかった。これは非相反性による屈折率差が1よりも小さい場合に相当し、擬似進行波共振器では、動作点が速波(漏れ波)領域の場合に限定され、非相反回路の工学的応用の面で制約があった。本研究では、擬似進行波共振器が漏れ波領域だけでなく、導波領域においても動作可能となるよう、線路の非相反性をさらに増加させるCRLH線路構造の提案を行い、数値計算によって導波領域でも動作可能であることを示した。さらに、擬似進行波共振アンテナは、これまで、応用例としてビーム走査アンテナに限定されていたが、本研究では、新しい応用の可能性として円偏波アンテナを提案し、非相反性の符号を入れ替えることにより、偏波回転方向を切り替えることができることも数値計算により示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、数値計算で非相反性の増大が確認された提案の非相反性CRLH線路の試作を行い、実験的に動作確認を行う。さらに、偏波回転方向切り替え機能が数値計算により確認された円偏波擬似進行波共振アンテナの実験的検討を詳細に行うことが挙げられる。また、円偏波放射を実現するために、現状では円形スプリットリング型構造を採用しているが、より単純な構造を提案する必要がある。さらに、周波数変化に伴うビーム方向のふらつきを意味するビームスクイントの問題を解消する方法はいくつか提案されているが、非相反の分散性のため帯域が非常に狭い問題が残されている。そこで非相反性の周波数分散の低減法を提案する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試作構造体の製作ばらつきなどを調べるために顕微鏡を購入する予定であったが、他の装置で代用できることが分かったので購入を取りやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究室で取り扱うアンテナは主に直線偏波放射のみを対象としていたが、円偏波特性を評価する必要が生じた。そこで円偏波放射の測定系を準備する予定である。
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