研究課題/領域番号 |
26289129
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宇野 洋二 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10203572)
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研究分担者 |
香川 高弘 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30445457)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動制御 / 制御工学 / ヒューマノイド / 知能ロボティクス / 生体生命工学 |
研究実績の概要 |
人間の身体運動の協調メカニズムを解明するために、運動計測実験を行うとともに協調制御のモデルについて検討した。 (1)軌道追従タスクにおける冗長方向への外乱適応実験と解析:前年度までに構築した軌道追従実験装置を用いて、冗長な方向の識別がシナジーの変化を引き起こすかを調べた。追従する手先の目標軌道を一次元あるいは二次元で与え、運動方向と直交する方向をそれぞれ冗長方向、制御方向に設定した。被験者の軌道追従中にニピュレータにより外乱を与えると、冗長方向に対する応答は制御方向に対する応答よりも有意に小さかった。この結果は、人間が外乱の方向が冗長な方向であるか否かを識別しシナジーを変更することを示唆する。 (2)身体のバランス制御における階層的な運動協調の解析:人間のバランス保持動作について、階層性を考慮した協調解析を考案した。この方法は、性能変数に影響を与えないUCM成分をさらに分割し、分割した成分を比較することでばらつきがどのように偏っているのか調べるものである。バランス保持動作の計測実験で被験者は片足立ちで外乱に対応する動作とリーチング動作の二つのタスクを行った。その結果、外乱対応動作では階層モデルの下位層の協調を働かせて重心を制御しており、一方リーチング動作では上位層の協調を強めることによって重心を制御していることが示唆された。 (3)外乱による姿勢変動を許容する多関節アームの位置制御法の開発:身体のような冗長性をもつ多リンクの立位姿勢維持では、重心を制御することが求められるが、支持多角形内での重心位置の変動は許容される。そこで、一意な目標関節角を陽に決めないで、時々刻々の姿勢変動を許容する制御モデルを考案した。5リンクの全身リーチングでの外乱を加えるシミュレーション実験を行い、提案法により小さなトルクでタスクを実行し、重心位置が支持多角形内に収まることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに構築した計測実験システムを用いて、身体運動の計測実験、冗長な方向をコントロールする心理物理実験を行い、シナジーの変化や階層性について、重要な研究成果を得ることができた。この結果は研究計画の際に予想していたことではあるが、実験と解析によって明らかにすることができた。また、協調制御の方法についても制御モデルの改良を行い、3リンクおよび5リンクの立位維持制御や到達運動制御に適用できることを確認した。 一方、運動タスクに応じて身体の関節間の協調や腕の機械的インピーダンスがどのように変化するかを調べるための研究は停滞している。その主たる原因は、マニピュレータとDSPを組み込んだ計測装置の制御上の精度の問題である.ノイズ除去やサンプリングレートの向上など、本実験を進める前に解決すべき問題がいくつか残っている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と同様の推進方策を挙げておく。構築した実験システムを用いて、被験者が台の上でコップをもって身体を揺らされているときの腕の機械的インピーダンスを推定する。その際、コップの水の有無や視覚情報の有無などの条件を組み合わせた実験パラダイムをくむ。実験では、マニピュレータにより手先に外乱(微小摂動)を与えたときの手先力と腕の変位を計測することで、インピーダンスパラメータ((腕をバネとみなしたときの剛性や粘性の係数)の値を推定する。この計測実験では、被験者の安全性が十分に確保されるよう、万全の安全対策をとる。特に、ロボットアームが伸展しきった姿勢でも被験者の体幹に接触しないように各装置を配置し、また緊急停止のためのスイッチを複数個取り付ける。実験中はこのスイッチを被験者と実験者、補助員(1名)のそれぞれが持ち、万一、ロボットが暴走しそうになったときには、直ちに停止できるようにする。これらの安全対策と実験手順を詳細に詰めて申請書を作成して、「名古屋大学安全厚生委員会倫理部会」の審査を受け、承認後に実験を開始する。 解析においては実験条件ごとに関節の協調度を算出して、インピーダンスパラメータの推定値との関係を検討する。これらの結果に基づいて、人が手先の振動を抑制するために腕の力学特性を変更することで関節同士を協調させているかどうかを考察する(尚、予備的な計算機シミュレーションでは、スティフネスの値を下げれば関節の協調度は高くなるし手先のジャークの値は低くなる)。
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次年度使用額が生じた理由 |
筋骨格モデル分析ソフトウェアを購入する計画であったが、オープンになっている簡易ソフトウェアを利用することにしたため。また、力覚センサ用アンプを使い回すことで購入を減らしたため、今年度の支出が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
運動計測装置のノイズ対策のための物品購入の費用にあてる。
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