研究課題/領域番号 |
26289139
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
不動寺 浩 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 主席研究員 (20354160)
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研究分担者 |
田中 義和 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00335704)
百武 壮 独立行政法人土木研究所, その他部局等, 研究員 (30468871)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コロイド結晶 / 構造色 / 歪み分布 / オパール薄膜 / 複合材料・新材料 / ヘルスモニタリング / ブラッグ回折 / 歪みゲージ |
研究実績の概要 |
物質・材料研究機構(NIMS)では歪み可視化を行うオパール薄膜の標準シートを安定に供給できる体制を確立した。標準シートには黒色PETシートを基盤とし、オパール薄膜には研究室内で乳化重合した単分散ポリスチレンコロイドル粒子(粒子径:200nm)と粒子間を充填するシリコーンエラストマーから構成されている。成膜プロセスと膜質評価のシステムを開発し、均一・均質で安定した(再現性の高い)歪み可視化シートの作製技術を確立した。これを標準シートとして広島大学及び土木研究所における各種実験に供給できる体制が整った。広島大学ではNIMSが作成した数種類のオパール薄膜と数種類の接着剤(弾性接着剤、エポキシ系接着剤など)を用いて、ひずみ計測実験を実施した。実験結果に基づくと、シアノアクリレート系接着剤を用いたひずみ計測実験において、安定にひずみを計測できることを確認した。また、実際の対象とする構造物に接着することを想定した場合、容易に入手可能なシアノアクリレート系接着剤とそれに適したオパール薄膜のベース材料が重要である。そこで、オパール薄膜のベース材料としてポリイミド系フィルムを用いた鋼構造物に接着性の良いにオパール薄膜を提案し、製作を実施した。土木研究所では液晶チューナブルフィルタを接続したCCDカメラと光源を組み合わせて、オパール薄膜の色変化を面的に検出するひずみ分布可視化を試みた。NIMSから提供されたオパール薄膜をアルミニウム試験片に貼り付けて力学試験に供し、静的な塑性変形を観測した。健全状態の波長(赤色、620 nm程度)からひずみ状態の波長(緑色、550 nm程度)への変化について、モニター波長あるいはリファレンスとなる光源の波長(白色光、赤色光、緑色光)によってひずみ信号のS/Nの向上を検討した。なお、日刊工業新聞2015年3月17日の朝刊に”歪み可視化シート”の記事が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NIMS:研究の基盤となる標準シートを安定に供給できる体制が整い、広島大学と土木研究所の研究分担者が遅延無く実験を行うことができるようになった。また、研究分担者の要請に応じてオパール薄膜の材料設計を行っている。全体としても研究計画を着実に達成している。なお、研究分担者のそれぞれの進捗状況は以下の通りである。 広島大学では数種類のオパール薄膜と数種類の接着剤を用いてひずみ計測実験を実施した。特に、自然膨潤させて作成したオパール薄膜とシアノアクリレート系接着剤を組み合わせたひずみ計測実験において、与えられたひずみに対して、安定にピーク波長のシフトが観測されることを確認した。また、そのシフトは、400μstrain の程度のひずみ分解能があることを確認した。また、鋼構造物に適用しやすい新規的なオパール薄膜の構成を検討し、試作を実施した。 土木研究所ではフィルターあるいは光源の波長によって得られる構造色の分布は異なるコントラストで得られた。材料側ではなく、計測装置側での感度の違いを正確に把握することで、実用化の課題とニーズ・用途にあった計測が可能となると考えている。「構造物へのひずみを注意喚起する」ことと「詳細なひずみ分布を得る」ためには異なる光学系や観測方法を検討する必要がある。ハーフミラーを用いた照射光、反射光を同軸で制御した光学系は問題なく機能し、定量的な実験が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
NIMS:実用化において標準シートを構成するオパール薄膜の耐環境性や耐久性が重要である。H27年度から、シリコーンエラストマー以外の原料としてフッ素系エラストマーなどについて材料設計を検討する。また、このアプローチ以外の検討事項としてシリコーンエラストマーの耐環境性向上のための保護層形成やポリスチレン粒子からシリカ粒子への代替などについても併せて検討する。 広島大学:平成26年度の研究成果によって、安定にひずみ計測を実施できるオパール薄膜と接着剤の組み合わせがある程度明らかになった。そこで、平成27年度以降は、安定にひずみを計測できるオパール薄膜と接着剤の組み合わせをさらに探求しつつ、この組み合わせを応力集中部を有するような試験片への適用、疲労試験への適用、などを実施し、構造物に生じている永久ひずみ・損傷の評価について研究を実施していく。 土木研究所:これまで共用の万能試験機で試験片を変形させた後に暗室で光学計測をしてきた。平成26年度末に暗室内に新しく万能試験機を導入したので、動的なひずみ可視化試験、ひずみゲージとの同時計測、中距離、遠距離計測方法を検討する。望遠レンズとリファレンス照射方法についても検討し、実用を想定したオパール薄膜の適用について構造物の専門家と議論を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
土木研究所で遠距離計測を検討するため望遠レンズとリファレンス照射を用いた実験を計画していたが、暗室内に設置される万能試験機の導入が予定通り進まず、暗室内での中長距離計測実験に至らなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
リファレンス光を効果的にオパール薄膜に照射するためのファイバーあるいは大型光源を購入する。
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