研究課題/領域番号 |
26289162
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷口 健司 金沢大学, 環境デザイン学系, 准教授 (20422321)
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研究分担者 |
中村 和幸 明治大学, 総合数理学部, 准教授 (40462171)
広瀬 望 松江工業高等専門学校, 環境・建設工学科, 准教授 (40396768)
久保 守 金沢大学, 電子情報学系, 助教 (90249772)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気象学 / リモートセンシング / 水循環 / 洪水 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,従来の同化対象であった積算水蒸気量に感度を持つ23.7GHz及び積算雲水量に感度を持つ36.5GHz帯の輝度温度に加えて,雲水量・陸域降水量及び水蒸気量の鉛直分布に感度を持つ89.0GHz観測輝度温度を追加し,アンサンブルカルマンフィルタによる同化実験を行った.また,異なる衛星に搭載された複数のマイクロ波放射計による観測輝度温度を用いた連続データ同化実験の実施に向けて,これまで用いてきたAMSR2観測輝度温度データに加えて,日本や米国により進められている全球降水観測計画(GPM)の主衛星に搭載されたマイクロ波放射計であるGMIによる観測輝度温度を用いたデータ同化実験を実施した.これにより,同化による改善効果が持続する期間に次の同化効果を得ることが期待される. 理論的な検討として,統計学の意味では多重共線性が存在する状況でのデータ同化手法について,インフレーションと局所化に関する調査・検討を行い,適切なインフレーション設定や LETKF の適用が有効であることを確認した.また,力学系における局所ノイズ鋭敏性について,気象モデル構造の理解やその応用の観点から検討を行い,観測データから構築可能な局所ノイズ鋭敏性指標が気象モデル構造の理解に有効であり,本研究における予測精度向上に資することが確認できた. データ同化過程で実行する放射伝達モデルで必要となる陸面放射率の推定においては,ヨーロッパ中期予報センターによる放射率推定モデルCMEMによる推定を実施した.また,既存の陸面放射率プロダクトを用いた低周波数及び高周波数帯での放射率の比較を実施し,季節ごとの関係性の違いを明らかにした. 現地観測については,シーロメータ,気象センサ,ウェブカメラ,ディストロメーターを用いた地上降水の24時間連続降水観測システムを,金沢大学角間キャンパス及び能登半島先端部の珠洲の2地点で継続して運用した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では,平成28年度には衛星観測より推定した雲底高度を用いたEnKFによるデータ同化手法の開発を予定していたが,平成27年度において雲微物理量の鉛直分布の温度依存性を利用した雲底高度の推定手法を導入したことにより,高周波数帯(89.0GHz)観測輝度温度のデータ同化や,複数の地球観測衛星に搭載されたマイクロ波放射計(AMSR2,GMI)による観測輝度温度の利用といった,当初の計画には予定していなかった課題に取り組むことができた.これらは衛星観測データの高度利用の実現と,同化効果の改善につながる重要な成果といえる.一方で,同化対象データの追加によって計算負荷が増大することとなったが,その解決策としてETKFやLETKFといった高度なデータ同化手法の実装という新しい研究テーマへの展望を得ることができた.また,平成28年度以降実施する予定であった海洋及び陸域を対象としたデータ同化に関しては,米国雪氷データセンター(NSIDC)から公開されている既存の月平均陸面放射率プロダクトから算出した気候値を用いることで,陸面放射率推定手法の構築を待たずして実施が可能となっている. 陸面放射率の推定手法の開発においては,モンゴルにおいて観測された地表面水文量を入力として,CMEMを用いた陸面放射率の推定を行った.NSIDCによる陸面放射率プロダクトとの比較検証では,CMEMによる推定値は過大となる傾向がある一方で,地表面水文量の変化に良く応答するとの結果を得たことが確認された.このことは,数値モデルによる陸面放射率の推定が可能かつ,当初構築を予定していた放射率データベースではなく,モデル出力を活用した適時性の高い陸面放射率の推定が有効であることを示唆するものであり,当初計画より高度な陸面放射率推定手法の構築につながるものである.また,低周波数域と高周波数域における陸面放射率の比較では,両者の関係の季節依存性を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで構築してきたデータ同化手法においては,同化対象である輝度温度の観測周波数帯の数を増やしたことから同化に要する計算時間が大幅に増加した.平成29年度は行列計算の負荷軽減を可能とする変換アンサンブルカルマンフィルタ(Ensemble Transform Kalman Filter:ETKF)の実装に取り組む.長期的には,さらに効率的な同化計算を実現する局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(Local ETKF:LETKF)への発展を目指す.また,マイクロ波放射計による観測は必ずしも数値予報の対象領域の全てをカバーするとは限らないことから,欠測域を含む観測データの適切なデータ同化が必要である.平成29年度は欠損域の影響に関する検討を行いながら,同化実験を通じた高度化を目指す.また,第一推定値の予測誤差が大きい場合には同化による改善効果が極めて小さく,EnKFを有効に機能させるためには第一推定値における誤差の大きさと分布が重要であることから,アンサンブルメンバー作成時の雲微物理量の修正方法について検討を行う.さらに,AMSR2やGPM/GMIなど複数の衛星搭載マイクロ波放射計による観測データを活用し,連続データ同化実験による修正効果の蓄積や,その数値気象予測への有効性を検討する. 陸面放射率の推定においては,推定精度の高い放射率推定モデルを用いて,数値気象モデル出力を用いた低周波数帯での放射率推定を行う.高周波帯の放射率については大気の影響が大きいことから検証が困難であるため,既存の放射率プロダクトを用いた低周波及び高周波数帯の放射率の関係をルックアップテーブルとしてまとめ,それを用いてモデルより得られた低周波数帯の放射率から高周波数帯の放射率を推定する.ルックアップテーブルの構築には低周波数帯・高周波数帯の関係を明らかにする必要があり,土地被覆や植生指標等と組み合わせた解析を実施する.
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備考 |
本研究で実施している現地観測について,2016年12月25日付の北陸中日新聞朝刊においてその取り組みが紹介された.
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