研究課題/領域番号 |
26289166
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
橋本 典明 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90371749)
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研究分担者 |
川口 浩二 独立行政法人港湾空港技術研究所, その他部局等, その他 (50371753)
横田 雅紀 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60432861)
山城 賢 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70336014)
伴野 雅之 独立行政法人港湾空港技術研究所, その他部局等, その他 (80549204)
藤木 峻 独立行政法人港湾空港技術研究所, その他部局等, 研究員 (10735004)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 方向スペクトル / 波浪観測 / 海洋波 / 長周期波 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,1)沿岸長周期波が発生した既往の気象・海象データの収集・整理・解析,2)多層型超音波ドップラー式海象計を対象とした方向スペクトル解析法の開発・改良,の2つの項目について検討した. 1)では,全国港湾海洋波浪情報網の波浪観測データの中から,長周期波が卓越した波浪観測データを抽出し,様々な気象擾乱時のデータを調査した.そして,沿岸から沖合までの海域における長周期波の周波数別特性の解析を行い,その違いの原因について考察した.周期150s以下の短い成分は,水深250m以下の海域に主に存在し,擾乱時と静穏時の差が大きいために年間の変動が大きいが,周期300s以上の長い成分は,全海域にまんべんなく存在し,年間の変動も小さいことを示した.また,微気圧変動の増大と副振動の発達を調査し,副振動の出現海域の違いは,低気圧の進行方向の違いに伴う微気圧変動の伝播方向の違いによるものであることを示した. 2)では,申請者らが開発したベイズ法(1987)を基礎として,多層型超音波ドップラー式海象計に適用可能な高精度で安定性の高い方向スペクトル解析法を開発した.なお,本研究ではこれまでに扱ったことのない多量データを使用して方向スペクトル解析を行うことから,多重共線性,収束計算の不安定性等の問題が生じる可能性がある.また,方向スペクトル解析に使用するデータの組合せや数の違いにより,推定精度に差が生じることもあり得る.そこで,多層型超音波ドップラー式海象計のデータの組合せや数を変えた様々な条件で,方向スペクトルを推定するための順・逆解析の双方向の数値実験を行い,本研究で開発・改良したベイズ法による方向スペクトル推定法の機能,精度,安定性および使用データの組合せや数の違いによる方向スペクトルの推定精度に関する定量的評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記述した,1)沿岸長周期波が発生した既往の気象・海象データの収集・整理・解析,2)多層型超音波ドップラー式海象計を対象とした方向スペクトル解析法の開発・改良,の2つの項目について実施した. 1)は,解析対象とする既往の観測データが膨大な量であることから,ある程度検討内容を絞って実施した.これについては27年度にも引き続き実施し,計画通りの内容の達成が見込まれる. 2)については順調に達成できた.本研究ではこれまでに扱ったことのない多量データを使用して方向スペクトル解析を行うことから,多重共線性,収束計算の不安定性等の問題が生じる可能性があった.また,方向スペクトル解析に使用するデータの組合せや数の違いにより,推定精度に差が生じることもあり得た.これらの点については,初期の段階で計算値に不安定性が見られるなど,やや手こずったが,ベイズ法を適切に改良することにより,問題点を解決し,安定性の高い方向スペクトル解析法を改良できた.本研究成果については,学術論文に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,1)多層型超音波ドップラー式海象計のシステムの改修(10層観測)と長周期波の特性解明を目的とした方向スペクトルの現地観測,および2) 方向スペクトル解析に基づく長周期波の出現特性の解明と長周期波の標準方向スペクトルの提案,の2項目を実施する. 1)については,秋田,八戸,下田の3地点に設置されている多層型超音波ドップラー式海象計のシステムの一部に改修を加え,水位変動と水圧変動に加えて各層3成分の水粒子速度の計10層分のデータを観測する.観測時期,観測期間については,少なくとも3ヶ月程度の連続観測を実施する.ただし,関係諸機関と調整の上,可能であればさらに長期間のデータを収録・蓄積する. 2)については,1)で測得された各波動量の時系列データから周波数スペクトルおよびクロス・スペクトルを推定する.ここでは,水面変動および各層3成分の水粒子速度成分から成る計10層分の水粒子速度(計30成分)の時系列データを使用し,496個の周波数スペクトルとクロス・スペクトルを推定する.次いで,それらのスペクトルを用いてベイズ法により方向スペクトル解析を行う.ベイズ法の適用に際しては,周波数スペクトルおよびクロス・スペクトルの組合せや数が異なる様々なケースを対象として解析し,推定された個々の方向スペクトルの差異を詳細に検討することにより,最も確からしい方向スペクトルを推定する.さらに,各観測ケースの方向スペクトル確定値を用い,長周期波の出現特性を検討すると共に標準方向スペクトルに関する検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究は,主として既往の波浪観測データの解析および方向スペクトル解析法の開発・改良を中心に進めた.また平成27年度に実施する方向スペクトルに関する現地観測に向けて種々の準備を進めた.一方で,平成27年度に実施する現地観測は,これまでに前例の無い高精度な方向スペクトル観測を実施するものであり,現地の状況,観測期間の気象・海象条件によっては経費がかさむ可能性が無いとは言い切れない.また,平成26年度の事前調査の結果,本研究で実施可能な現地観測地点が,秋田,八戸,下田の3地点に絞られることになり,申請者らの拠点からは遠く離れていることから,旅費が当初予定よりもかさむ可能性が発生した.そこで平成26年度の予算をある程度節約し,平成27年度に実施する観測経費および旅費に使用することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,現地観測経費および旅費に配算する.
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