研究課題/領域番号 |
26289181
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小熊 久美子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00361527)
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研究分担者 |
春日 郁朗 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20431794)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水処理 / 消毒 / 紫外線 / 発光ダイオード / LED |
研究実績の概要 |
紫外発光ダイオード(UV-LED)は、小型でレイアウト自在なため装置本体の小型化に有利であり、無水銀で衝撃に強いためユーザーが自己責任で運転するシステムに導入しやすい。また、繰り返しのオンオフに強く、水を必要なときに必要な量だけ処理するシステムに有効である。すなわち、UV-LEDは小規模な水システムに有利なデバイスといえる。 H27年度は、小規模水道や家庭での利用を想定したUV-LED装置を試作し、その性能を評価した。特に、浄水膜とUV-LEDの併用に着目し、浄水膜の前にUV-LEDを設置して後段の膜ファウリングを抑制する可能性を検討するため、水道水中の従属栄養細菌に対するUV-LED照射の効果を調査した。これは、一般に普及している浄水器の多くはろ過を基本としていること、また、そのような浄水器の性能低下は生物膜発生によるろ過閉塞が要因のひとつと考えられるためである。 実験では、脱塩素した水道水をUV-LED流水殺菌装置に通水し、照射後7日間にわたる従属栄養細菌の変化を測定した。浮遊性および膜付着性の従属栄養細菌をR2A培地による混釈培養法で測定したほか、R2A培地上のコロニーを色調別に釣菌し、単離株の16sRNA遺伝子をPCR増幅してシーケンスを決定した。その結果、浮遊性および膜付着性の従属栄養細菌ともに、UV照射後6日目まで照射ありが照射なしを下回った。また、照射なしでは6日目で増殖が飽和した一方、照射ありでは7日目でもなお増殖傾向を示した。よって、膜ろ過前にUV-LEDを照射すると、従属栄養細菌に由来する膜ファウリングを照射なしの場合よりも一定期間は低減できるものの、長期的な効果は今後注意深く検証する必要がある。また、従属栄養細菌にはUV耐性に違いのある複数の種が存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に沿った研究成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
水道水中に含まれる従属栄養細菌の遺伝子を抽出・精製・PCR増幅してゲノムシーケンシングに供し、主要な種を特定する。特に、塩素消毒や紫外線消毒に対して抵抗性を示す種を特定し、その不活化特性を評価することで、UV-LED浄水装置の設計に資する知見を得る。例えば、従属栄養細菌の不活化に必要な紫外線照射線量を明らかにし、搭載すべきUV-LEDの個数や確保すべき照射時間について定量的なデータを得る。 並行して、水道水を介した感染事故が多数報告されている病原微生物を対称に、純粋株を用いた試験も実施する。具体的には、紫外線耐性が著しく高い病原性ウイルスのアデノウイルス、細胞外代謝産物を多量に産生し生物膜を形成しやすく日和見感染症の原因菌として知られる緑膿菌、生物膜中のアメーバに寄生し飛まつ等を介して呼吸器官に侵入し肺炎などの重篤な疾病をひき起こすレジオネラ属菌などに注目し、これらのUV-LED照射による不活化特性を明らかにする。その際、発光ピーク波長の異なるUV-LED素子を複数試験し、有効な波長を特定して装置開発に資する知見とする。 小規模浄水施設や蛇口取り付け型の家庭用浄水器など、社会実装を強く意識したUV-LED浄水装置のプロトタイプ(試作機)を作製し、その性能実証試験の実現を目指す。 最後に、三年間の研究成果を総括し、UV-LEDを利用した浄水装置の有効性を論じる。実用化へ向けた課題を整理し、将来の研究展開や社会実装に資する知見を集積する。成果の社会発信に注力し、学術分野への発信(学会発表、学術誌での論文発表など)に加え、協力企業と連名でのプレス発表、ホームページでの研究成果紹介など、学術界以外からもアクセスしやすい媒体を通じて情報を発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はUV-LED光源や照射装置に予算捻出を計画していたが、LED素子メーカーからの貸与が可能となり、計画よりも低コストで予定の実験を遂行することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
水道水中の従属栄養細菌について、主要な種を特定するため、コロニーの単離と遺伝子のPCR増幅、ゲノム解析を実施する。対象微生物として複数の微生物(アデノウイルス、緑膿菌、レジオネラ菌など)を扱うため、それぞれに適した器具類や培地の購入が必要である。UV-LED光源は素子メーカーから貸与を得られる見通しだが、必要に応じて購入を検討する。 小規模水道や家庭用浄水器など、使う場を絞り込んだ浄水装置の試作機を作製する。具体的には、実施に協力的な水道事業体や家庭を募り、その施設に適した試作機を作製するか過年度の装置を改良する。小規模水道への適用検討では、山間地での試験を想定しており、試験現場までの装置運搬費、申請者および補助者の旅費を捻出する。家庭での適用検討では、東南アジアの都市で実証試験を実施すべく、実験計画を立案中であり、その旅費や装置運搬費を捻出する。
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