研究課題/領域番号 |
26289188
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金久保 利之 筑波大学, システム情報系, 准教授 (90261784)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コンクリート構造 / 繊維補強セメント複合材料 / 繊維配向 / 架橋則 / 配向強度 / 可視化 / 打設方法 / 柱梁接合部 |
研究実績の概要 |
本研究では、高性能繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)のマトリックス中における繊維の配向性を分布関数(楕円分布)で表現し、スナビング効果および有効強度係数を含めて架橋則を精確に評価することによって、HPFRCCの引張性状および構造性能の評価の構築を行うことを目的としている。特に、配向性分布関数に及ぼす境界条件、すなわち部材の大きさ、HPFRCCの流込みの方法、補強筋の有無などの影響を評価し、HPFRCC部材の能力を最大限発揮し得る打設方法を提案し、加力実験をともに行って部材の構造性能を評価するものである。 平成26年度は、主としてテストピースレベル(引張試験体、曲げ試験体)で、架橋則構築のための可視化実験および加力実験を行った。着目した項目は、部材の大きさに影響されるウォールエフェクトおよび繊維配向を制御する打設方法である。また、平成27年度からの部材実験のための予備試験として、パネルゾーンにHPFRCCを用いた柱梁接合部の加力実験も行った。 ウォールエフェクトを検討するための引張試験では、試験体を硬化後に型枠上部と下部に切断し、引張試験を行った。型枠下部の試験体のひび割れ発生以降の引張応力が型枠上部の試験体より大きく、ウォールエフェクトが明瞭に確認された。繊維配向を制御する打設方法として、流込み後、棒状バイブレーターを挿入する方法を検討した。曲げ試験体を対象として、可視化実験、加力実験を行った結果、楕円分布近似における配向強度が増大し、最大荷重および破壊エネルギーが向上した。HPFRCCを用いた柱梁接合部の加力実験では、パネルゾーンにおける架橋則を検討するために、接合部せん断破壊型の試験体を計画した。ひび割れの発生状況を詳細に検討し、架橋則とせん断強度の関係を把握するためのデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の当初予定はテストピースレベルでの可視化実験および架橋則の構築であり、ウォールエフェクトおよび繊維配向を制御する打設方法の検討を行うことができた。実験結果としてウォールエフェクトの存在を明確にし、架橋則を構築する上での実証データを得た。ただし、架橋則を構築する上で必要となる、配向性分布関数に適用する配向強度の定量的評価には至っていない。一方で、新しい打設方法として、棒状バイブレーターを用いる方法を提案することができた。打込み時にバイブレーター周辺の繊維がバイブレーター棒に直交する面に二次元状(バイブレーターを中心とした円の接線方向)に配向しやすくなり、バイブレーターを固定した場合には型枠付近の繊維の軸方向への配向性が強まると考えられる。さらにバイブレーターを軸方向に移動させることによって、試験体全体に渡って軸方向に配向しやすくなると考えられる。この方法により、繊維の配向性をコントロールできるようになる可能性があり、このときの配向強度を定量的に評価する方が合理的である。 また、本来は平成27年度以降実施予定であった部材実験に関して、先んじて柱梁接合部の加力実験を行った。ひび割れの発生状況を詳細に検討し、架橋則とせん断強度の関係を把握するためのデータを得ることができた。接合部のひび割れ幅から繊維の引張応力を算出するために、配向強度を仮定して架橋則を算出し引張応力を求め、主歪角度からせん断成分を求めて接合部せん断力を算出した。このように、実験結果に適合する配向強度を検討することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定の通り、水ガラスを利用した繊維配向性の可視化実験、FDMによる3次元流動解析および同一条件による実際のHPFRCC試験体の作製と加力実験の3つの柱に関して、平成27年度は部材実験試験体レベルでの検討を行う。当初予定では平成27年度が梁実験、平成28年度が柱梁接合部実験であったが、平成26年度に柱梁接合部の予備実験を行うことができたので、平成27年度は梁実験と柱梁接合部実験を同時進行で行う。 梁実験の試験体は、せん断破壊型と曲げ降伏先行型とし、HPFRCCの打設方法を実験因子とする。平成26年度の結果より、棒状バイブレーターを用いる打設方法で繊維の配向性をコントロールできる可能性があり、梁試験体においても同様の方法を試みる。 柱梁接合部の試験体は、パネルゾーンのせん断破壊型とし、混入繊維量および帯筋の有無を実験因子とする。平成26年度の実験と同様にひび割れの発生状況を詳細に検討し、架橋則とせん断強度の関係を把握するためのデータを得る。実験結果に適合する配向強度を検討することにより、繊維量および鉄筋の有無が架橋則に及ぼす影響を検討する。 FDMによる3次元流動解析は前記の試験体形状に対して行い、試験体の大きさおよび鉄筋の有無が繊維の配向に及ぼす影響を検討する。可能であれば、平成26年度の結果であるウォールエフェクトによる配向強度の差異を再現する。 水ガラスを利用した繊維配向性の可視化実験では、今までの実験よりボリュームが相当大きくなるため、実験に工夫が必要になる可能性がある。通常水に増粘剤を混ぜ、粘性をHPFRCCのマトリックスと同等になるように調整したものによる実験も検討する。
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備考 |
和文および英文。
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