研究課題/領域番号 |
26289189
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
五十嵐 規矩夫 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (40242292)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 建築構造 / 鋼構造 / 座屈 / 薄板 / 材料 / 非対称断面 / 波板 / サンドイッチパネル |
研究実績の概要 |
現行,内外装材として使用されるような薄板からなる部材は,その耐震性に関わる構造特性については明らかにされないまま,その使用目的にのみ適した形状が使用規定的に採用されているのが現状である.また薄板を冷間成形してなる断面は,その形状が非対称で複雑なため,合理的かつ簡便な設計法が確立していないのが現状である.以上の背景を踏まえ,本研究では,a)規則的な形状を繰り返すことで版を構成する波状鋼薄板,b)両面より薄板で高分子材料を挟み込む事により形成される版,c)冷間曲げ加工により成形した溝形状の任意断面を有する部材,を対象とし,それらの強地震及び強風時における安定性評価と耐震性能評価を行うと同時に,それらを適宜組み合わせた合理的な接合を含む構造形式の提案を目的としている. 平成27年度に行った研究サブテーマは,1)冷間成形開断面部材の圧縮曲げせん断挙動の解明と座屈耐力算定,2)材料特性の把握と冷間成形後の材料特性と部材特性の関係性,3)鋼薄板軽量構造のための適切かつ効果的な接合方法の開発,の3つである. まず,薄板からなるー軸対称断面部材に焦点をあて,サブテーマ1),2),3)として端部境界条件の違いに着目した上で数値解析および載荷実験を行うとともに,薄板および冷間整形に伴う薄板の材料特性を把握した.合わせて,ー軸対称断面部材を組み合わせた組み立て圧縮材についての数値解析を実施し,その接合条件の違いに伴う座屈性状の変化を考察した. また昨年度につづいて波形の薄鋼板を用いた筒型容器構造物を対象として,サブテーマ1)に関連した数値解析を行い,容器内容物の影響を加味した地震時の弾塑性挙動を把握した. さらに,サンドイッチパネルの全体座屈および表面材の座屈は芯材特性に大きく影響されるという昨年度の知見を踏まえて,温度環境が与える芯材の力学特性および芯材内での材料不均等性を実験により確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績にも記したように,平成27年度に行った研究サブテーマは,1)冷間成形開断面部材の圧縮曲げせん断挙動の解明と座屈耐力算定,2)材料特性の把握と冷間成形後の材料特性と部材特性の関係性,3)鋼薄板軽量構造のための適切かつ効果的な接合方法の開発,の3つである. [冷間成形開断面部材の圧縮曲げせん断挙動の解明と座屈耐力算定](サブテーマ1)では,圧縮性状及び横座屈性状に的を絞り,断面構成による安定性の違い,リップの有無が座屈性状に及ぼす影響について数値解析および載荷実験により検討するとともに,理論解析による座屈性状の分析を行い,せん断曲げを受けるリップ溝形断面部材の座屈耐力評価については,概ね解明できた.また,リップ溝形断面組立圧縮材についても数値解析的にであるが,概ねその座屈耐力評価式を構築できた.さらに,波形の薄鋼板を用いた筒型容器構造物を対象として数値解析を行い,容器内容物の影響を加味した地震時の弾塑性挙動を把握し,座屈形式の分類,座屈耐力評価式の一部導出に成功している.. [材料特性の把握と冷間成形後の材料特性と部材特性の関係性](サブテーマ2)では,薄板および冷間加工された薄板の引張試験よりその材料特性の変化について把握した.またサンドイッチパネル芯材について温度環境が与える芯材の力学特性および芯材内での材料不均等性を実験により確認しており,これらの影響が表面板の座屈性状に与える影響を検討するに十分な知見が得られている. [鋼薄板軽量構造のための適切かつ効果的な接合方法の開発](サブテーマ3)では,薄板断面を組立てなる圧縮材の綴り方形式について数値解析的な検討を加え,その影響を把握した.また端部との接合条件が圧縮性状,横座屈性状に与える影響を検討し,それらの影響を考慮した座屈耐力評価式を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成28年度に計画している研究のサブテーマは,これまでの2年間の成果を受けて行う継続的かつ総括的なテーマである.1)鋼薄板軽量構造のための適切かつ効果的な接合方法の開発,2)鋼薄板軽量構造の効率的効果的な構造形態の提案と座屈設計法試案の提示,の2つである.これらは前年までの検討結果を有機的に反映しつつ進め,その結果を受けて再度座屈耐力算定を行い,本研究全体として最終目的である鋼薄板軽量構造研究開発及び設計試案の策定を進める.1)については,平成27年度からの継続であり,2)について本年度に新規に行うテーマである. [鋼薄板軽量構造のための適切かつ効果的な接合方法の開発](サブテーマ1)薄板においては適切な接合方法を用い,その特性を十分把握しておく必要がある.ここでは,基本的にはドリルねじ接合を対象とするが,本研究で対象とする薄板に見合った接合方法を同時に模索する.パラメトリックな実験および数値解析をもとに耐力評価を行い,適切な接合手法と接合部設計に向けた十分な資料を提供する.合わせて周辺部材との接合形式が与える部材性状についても適切に評価するモデルを構築し,接合部,接合方法の影響を取り入れた形で部材性能を検討し,サブテーマ2)に繋げる. [鋼薄板軽量構造の効率的効果的な構造形態の提案と座屈設計法試案の提示](サブテーマ2)本サブテーマは,研究全体の総括であり,前年度までの結果をもとに鋼薄板軽量構造設計指針の基となる試案につながる評価式を作製することにある.また具体的な成果物として鋼薄板軽量構造の具体的な構造形態の提案を行う.この基本的な構想は既往の研究の中で検証しており,これまでの結果を用いれば,その発展,応用において容易に実現可能な形態を提案できる. さらに本年度が最終年度にあたるため,これまでに得られた結果をとりまとめ,成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は概ね当初の予定どおり経費を使用している.ただし,1万円未満の少額の経費を次年度に使用することとした.この金額は,予定どおり経費を使用していくなかで,端数として生じた極めて少額である.そのため,経費を有効使用するという観点から次年度に使用することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は極めて少額であるため,次年度の使用計画を大きく変更する必要はない.この分は,試験体あるいは試験実施費用の一部として使用予定である.
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