研究課題/領域番号 |
26289192
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大久保 孝昭 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60185220)
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研究分担者 |
寺本 篤史 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30735254)
松本 慎也 近畿大学, 工学部, 准教授 (30325154)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保全技術 / 建築外壁 / 濡れ / 濡れセンサ / 計測システム / モニタリング |
研究実績の概要 |
本研究は,建築外壁に関し,濡れや乾湿繰返しなど,部材内部の水分移動をモニタリングし,部材の物理的劣化や居住性の低下をより早期に防止するための診断技術を確立することを目的として実施している。 2014年度は,安価で形状・寸法が自由な静電容量型の無線濡れセンサを活用すること,またモニタリングは建物利用者が実施することを想定し,簡易な計測システムの開発を試みた。その結果,ICタグを活用したNFC技術によってタブレットやスマートフォンでデータを取り込むシステムのプロトタイプを構築できた。 まず最初に実施した「濡れセンサの精度を検証するための実験」は,センサの精度を検証するとともに,各種構造の外壁を構成する材料に関し,「センサによる濡れ計測値」と「各材料の濡れの状態(含水率)」の相関分析を行った。特に,センサ表面を覆う吸水材料と各種建築材料の含水率との関係を明確にできた。 「濡れセンサを壁面内部に設置する手法を確立するための実験」では,木造ラスモルタル外壁の模擬試験体に濡れを生じさせて,濡れを精度良く計測するためのセンサの形状,設置手法について実験を行い,基礎データを収集した。特に,ステープル穴,ラス板,断熱材,さらに内部仕上げボード等の濡れ状況のモニタリングを実施し,計測システムの合理性の検討を行った。さらにひび割れ等の欠陥を有するモルタルの内部の濡れ性状についても欠陥の大きさと濡れの進展について相対評価試験を実施した。 モニタリングを実施するためには,壁面の断面内に部材としての性能を損なわないようにセンサを設置することが必要である。次年度へつなげる研究として,モルタル内部,各材料層の界面にセンサを設置して,濡れをモニタリングする手法についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時に計画した内容通りに研究は進んでおり,初年度の研究としては順調といえる成果が得られた。 研究計画に示した項目の進捗状況は以下の通りである。 「簡易な計測システムの開発」はプロトタイプの試作をおこなった。「濡れセンサの精度を検証するための実験」は数種類のセンサで基本性能を検証し,一部今後の課題も抽出した。「濡れセンサを壁面内部に設置する手法を確立するための実験」については,木造ラスモル外壁,モルタル内部での埋め込み実験を行い,次年度以降の研究の基盤を構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度に試作した計測システムの仕様を向上させると共に,試作システムを用いて以下の実験研究を実施する 「外壁環境再現実験による外壁内部の濡れ計測技術の確立」を目的とした実験研究を実施する。外壁は室内環境と屋外環境の境界に存在し,それらの環境の違いにより水分移動や結露が生じる。この状態を再現できる二層式環境再現装置を用い,RC外壁,ラスモルタル外壁およびパネル外壁を模擬した各試験体を試験層に設置し,室内,屋外環境を変化させて不具合事象を発生させて濡れモニタリングを実施する。 「不具合部のモニタリングによる補修の要否の診断技術確立のための実験」は,外壁欠損部における水分の進入性状をモニタリングし,試験体に生じる不具合の程度から,補修要否のクライテリアを決定するための実験と位置づけられる。このため,外壁欠損部は,ひび割れ,剥離およびシーリング欠損部の3種類とし,それぞれの欠損を施した模擬試験体を作製して補修の要否を判断するための基礎データを収集する。なお本実験では,濡れが生じた各試験体において,反り,腐食,ひび割れ,カビおよび振動障害などの居住性の低下を定量的に計測する試験(変位・ひずみ計測,振動計測,腐食検査等)も併せて行う。 また,鉄筋コンクリート外壁において,建築仕上げ層の透湿性が低いと,躯体コンクリートと仕上げ層との間に水分が停留し,仕上げ材剥落等の原因となる。そこで本研究では,当初計画に加えて,仕上げ層の透湿性の評価に関しても濡れセンサを活用することの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に供した複合材料試験体の廃棄処分費用について,業者に委託せず,きちんと分別を行ったため,試験体の廃棄処分費用が想定よりも安価となった。これは年度末に執行した予算であるため,安価となった分を無理して使用せず,次年度に有効活用するために繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越した金額は10万円未満であり,次年度の研究計画全体に変更はない。繰り越しを行った金額については,消耗品である静電容量型センサのピックアップ部の購入数を増やし,濡れセンサの設置実験を充実させることとする。
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