研究課題/領域番号 |
26289195
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
曽田 五月也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70134351)
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研究分担者 |
宮津 裕次 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70547091)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リンク式流体慣性ダンパ / 粘性減衰力 / 慣性力 / 負剛性 / パッシブ制振 / 単体加力試験 / 振動台実験 / 流体密度 |
研究実績の概要 |
昨年度は、リンク式流体慣性ダンパが発揮する抵抗力に関して、粘性減衰力に対する慣性力の比率を高めることでダンパの特徴的な力学特性である負剛性を顕在化させて構造物へのパッシブ制振効果を高めることを考えた。この比率をダンパ性能の高度化の指標とし、ダンパの構造、流体特性の調整等々体系的に検討した。小型ダンパの単体加力試験及び同ダンパを設置した小型2層鉄骨フレームの振動台実験を行い、基本アイデアの正しさを検証した。ダンパに封入する流体の密度を上げることで慣性力の効果を大きくすることが可能であり、流体が流れるチューブに硬い素材を用いることで大きな抵抗力を発揮できることを明らかにした。変位の反転時に荷重変位関係に見られる荷重の増加は油撃によるものであることを明らかにし、油撃の影響も考慮してダンパ剛性の負勾配を評価することでダンパの性能を定量的に評価できることを示した。このように改造したダンパを上下何れかの層に損傷が集中するように設計された小型2層鉄骨造フレームに設置して実施した振動台実験より、ダンパのリンク効果により各層の変形を一様化できること、また、慣性質量効果により上階の応答加速度を低減できることを確認した。2基のシリンダで発生する抵抗力の総和により荷重変形関係を評価するならば、ダンパは先に述べたように負の剛性を明確に発揮するが、個別のシリンダごとに荷重変形関係を評価するとその剛性は各層のダンパごとに異なることも分かった。このことから、ダンパの荷重変形関係が発揮する見かけの剛性は慣性力だけでなくリンク機構が発揮する抵抗力にも依存すると推測し、主構造の剛性分布とダンパの発揮する見かけの傾きの関係を解析的に検討することでその傾向を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、木造、軽量形鋼造(薄板も含む)による低層戸建住宅・共同住宅を主な対象として、それらの耐震安全性を向上させるための制振構造システムを提案し、その有効性・実用性を実験的・解析的に明らかにすることを目的とするものであった。具体的には油圧式のリンク機構に、負剛性を発現する慣性力を発生する機能と構造各部の変形分布を適正に制御する機能とを併せ持たせるものであるが、小型のダンパの制作により基本性能を把握して当初の目標が実現されることを確認するとともに、さらにその性能を向上させるために、流体の密度やリンク用のチューブの長さや硬度を調整してその効果を検証した。最終的な目標は、極めてまれに発生する強い地震動の作用に対しても建物の崩壊を防ぐ構造システムを構築することであるが、現時点では、小型の建物モデルを用いて、大きな塑性変形を伴わない範囲で目標が達成されることを確認できたにとどまっている。大きな塑性変形も許容する建築物に制振システムを適用する場合に、変形抑制効果と加速度応答低減効果とが互いにトレードオフの関係を有することが一般的な傾向であるが、提案するシステムではダンパに負の剛性を付与することでその弱点を大幅に緩和できることを既に解析ならびに小型試験体による実験で確認できた。最終年度には中型の振動台を利用して、実寸法の建物モデルを用いて目標とする制振効果が発揮されることを検証する。
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今後の研究の推進方策 |
2016年4月14日に熊本地震が発生した。特筆すべき事項としては、限られた地域内で震度7クラスの地震が連続して発生したことである。現在のわが国の建築物は十分に耐震的であるとは言え、一般的には震度7クラスの地震動を対象とはせず、ましてやそのような地震動が繰り返して発生する事態は想定していない。そのような大地震時には大きな塑性域に入ることを前提とする通常の耐震構造では対応できないことは明らかであり、今後、制振構造へのニーズが高まると思われる。地震入力エネルギーの多くをダンパにより吸収させて構造本体の損傷を極力抑える仕組みとして本研究で提案するダンパシステムは有効であることは昨年度までの研究を通じて実証済みであり、本年度は実スケールの建物モデルを用いた振動台実験を実施する。事前には、2連のリンク機構を複数設置する配置方法、リンク機構を多数連動させる方法など、それぞれの可能性につき、直列質点系モデル、平面モデル、立体モデルを用いて検討する。最終的には、解析により本構造システムの優位点を策定し、その特性を実スケールの建物モデルを用いた振動台実験により確認する。 本研究の成果は低層の軽量構造の耐震安全性を比較的低いコストで飛躍的に向上させ、今後建築される住宅の長寿命化を促進することにも有効であると同時に、小型でハンドリングに優れる事より、小型軽量の構造を対象としては、既存建物の補強にも容易に利用することが出来る。本申請では対象を軽量構造に限定しているが、さらに将来的には、規模の大きな建築物への適用も視野に入れて行くことで、小規模、大規模を問わず、我が国の建築物地震防災体制の強化に資するように整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施する実スケール鉄骨フレームの振動台実験においてフレームに設置するダンパの設計が遅れて、業者への発注・納入時期が前年度予算の清算時期との調整が難しくなったため。本来はダンパの納品を受けて性能確認までを前年度の終える予定であったものが、若干の遅れを生じたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の夏に実施する振動台実験の経費の一部として使用する。
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