研究課題/領域番号 |
26289227
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
毛利 哲夫 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20182157)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内部自由度 / クラスター変分法 / 経路確率法 / 有限温度磁性 |
研究実績の概要 |
原子配列や、原子変位、磁気スピン、電子分布など、物質・合金には多様な内部自由度があり、かかる自由度の励起・遷移が多彩な材料特性の発現を担っている。これらの自由度が最適化されたところに平衡状態があるが、種々の自由度が競合・共存する系に対して、多岐にわたる自由度を効率的に最適化し、高精度の自由エネルギーを求めることには理論上大きな困難が伴う。一方、本研究で用いるクラスター変分法では、基本クラスターのサイズを増大させればさせる程、配列の自由エネルギーが厳密な値に近づくことが保障されている。本研究では、クラスター変分法を基本として、原子変位、磁気スピンの自由度を配列の自由度に変換する手法を提案し、変位と磁性の関与する相平衡・相変態の大規模並列計算を実行することを目的として研究を展開してきた。連続変位クラスター変分法では原子の局所変位の自由度を(超)多元系合金の配列の自由度に置き換えるが、この考え方を他の自由度変換にも用いた。特に、Niの有限温度磁性の計算を行ったが、fccの有限温度磁性は難しいとされながらも、我々は実験結果と200K程度の誤差範囲でキュリー温度を求めることができた。単純なLennard-Jones potentialを用いていること、又、スピンのcollinearな配列しか考慮していないことを考えると、本計算は第一段階の計算としては極めて良い結果を与えた。さらに、経路確率法の計算を行った。ここでは局所クラスター上の原子の配列の時間遷移を記述するpath variableを配列の自由度に変換するという手法をとった。これにより、これまで極めて困難とされてきたfcc系の空孔機構に基づく緩和過程の計算が可能になり、Ni3AlのL12規則相に対して急熱・急冷緩和に伴う長距離規則度の緩和時間を、拡散の活性化エネルギーや空孔濃度の関数として求めることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、経路確率法は研究の対象に入れていなかったが、path variableが原子種とみなせることに気づき、連続変位クラスター変分法の考え方を援用することで、長足の進展を遂げることができた。計算対象はNi3AlのL12規則相の急熱や急冷に伴う長距離規則度の緩和過程に焦点を絞っており、特に、空孔濃度や拡散の活性化エネルギーが緩和時間に及ぼす影響について詳細な検討を試みた。これまで、経路確率法を用いて空孔機構の緩和過程を取り扱うことは、fcc格子の場合にはきわめて困難とされてきたが、この研究において初めて可能となった。さらに、本計算はZrO2にも拡張を行い、スピン機構の緩和過程の計算に成功した。ZrO2ではcubit-tetragonal transitionが酸素原子の集団変位によって駆動されており、経路確率法が変位型相変態に対しても用いることができることを示唆している。これは研究開始当初には考えていなかった進展の可能性を含んであり、変位型相変態とkineticsの双方を含む大自由度変換の問題へと展開可能である。又、このことは、相変態の研究が拡散型相変態(replacive)と変位型相変態(displacive)に分けて、個々独立に行われてきたきらいがあるが、これを統一的に取り扱うことができることを示唆しており、相変態の理論研究に大きなインパクトを与えることができるはずである。ただし、経路確率法の定式化は依然として複雑であり、いろいろな結晶に対して汎用的に定式化を行なえる段階にはない。又、拡散の活性化エネルギーや拡散係数は現段階ではパラメターとして与えており、これをフォノン計算などを援用しながら、第一原理から算出する必要がある。未だ、フルに計算を終えていないことにより「おおむね順調」と評したが、当初の計画にはなかったテーマも扱うことができるのは大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、計算のフレームワークは完成に近い。今後は、詳細部の精密化が必要と思われる。磁性の計算においては、スピン間相互作用エネルギーの厳密な第一原理計算、スピン種(原子種)の増加による大きな磁気自由度の導入、collinearからnon-collinearへの展開が課題である。non-collinearは極め計算時間を消費するために、効果的なアルゴリズムの開発が必須となると思われる。一方、経路確率法では、空孔拡散の素過程として、拡散の活性化エネルギーを第一原理から算出し、さらにpre-exponential factorをフォノン計算から算出する。これらによってフルに第一原理計算が可能になると思われる。また、fcc格子以外への拡張として、ZrO2を対象にしてきたが、酸素原子は単純立方格子上に存在するものの、酸素の格子はZrのfcc格子に囲まれており、酸素と空孔の置換は複雑である。これを解決することが、経路確率法の一般化においては必要である。又、酸素原子の変位を原子種として取り扱うが、空孔をどのような原子種とするかが変位型相変態における空孔機構を考える上での鍵になる。この問題を解消することが拡散型と変位型相変態の統一的な描像を構築していく上で大きなハードルである。ただし、本課題の目的は相変態の統一的な手法の構築ではなく、自由度変換の手法の開発にある。これまでに、磁性、局所変位、集団変位を取り扱ってきており、今回はさらにkineticsに考え方を拡張したが、他の内部自由度に対しても鋭意取扱いを展開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、経路確率法を用いて、kineticsの関与する内部自由度の変換の問題に大きな進展をみた。一方、昨年度まで変位型相変態の問題に取り組み論文を執筆できる状態にあるが、これまでの研究を統合して、変位型相変態とkineticsの双方を含む大自由度変換の問題を扱うことで、本研究の目的をより精緻に達成することができる。平成29年度に、この問題に取り組んできた研究者との打ち合わせを行うべく、次年度の使用を計画した。
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次年度使用額の使用計画 |
打ち合わせ旅費を計上する。
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