研究課題/領域番号 |
26289229
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
谷山 智康 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 准教授 (10302960)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁性 / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
FeRh規則合金等に見られる反強磁性秩序と強磁性秩序が拮抗した特異な磁気秩序状態は、磁場を印加することでメタ磁性転移を引き起こすことが知られている。この磁気秩序状態にスピン偏極した電流や電荷の移動を伴わないスピン角運動量のみの流れ(スピン流)を外部から注入することで、磁気秩序が変調を受けると期待される。本研究では、スピン流等の外部摂動により磁気秩序を制御するための新手法の提案と実証を目的とする。
上記の目的を達成するために本年度は、H26年度に設置したベクトルネットワークアナライザーを用いてFeRh薄膜の強磁性状態において、スピン波を生成し、その検出を行った。具体的には、S21パラメータの計測からスピン波の伝播特性を評価した。その結果、FeRh中に生成した静磁表面弾性スピン波が20マイクロメートル以上のスピン波減衰長を持つことを観測することに成功した。この結果から、スピン流によるスピン波変調効果を計測することが十分に可能であることが確認された。一方、反強磁性FeRh/強磁性Co細線接合において、Coからスピン偏極電流の注入を行い、局所電気抵抗測定によりスピン偏極電流により誘起される反強磁性-強磁性転移を観測した。スピン偏極電流密度の増大とともに反強磁性-強磁性転移による電気抵抗の減少が顕著となることを見出し、さらに電流-電圧特性の離散的な変化から、FeRh細線中にスピン偏極電流により形成される反強磁性/強磁性界面の位置がBarkhausen的に非連続的に移動することを見出した。この結果はスピン蓄積もしくはスピントルク効果による磁気転移への影響として理解され、理論とも整合した結果となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、強磁性状態におけるFeRh中では、Rhに起因するスピン軌道相互作用の影響により静磁表面弾性スピン波の減衰長が極端に小さい可能性があるため、スピン波を計測するためには素子構造の工夫の必要性を想定していたが、強磁性状態ではRhが磁気モーメントを持つことに起因して減衰長が極めて長距離に及ぶことを見出すことに成功した。当初計画では想定されていなかった結果を得ることができたため、上記の達成度と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度までに得られた、FeRhにおけるスピン波計測技術とスピン偏極電流による反強磁性-強磁性転移の結果を融合することで、スピン流による強磁性スピン波の変調効果を計測する。また、FeRhのメタ磁性転移の過渡過程におけるスピン流のスピン波への影響を調査する。加えて、H27年度に見出されたFeRhにおけるスピン流誘起メタ磁性転移の過渡過程を調査することで、スピン蓄積とスピントルク効果のいずれがメタ磁性転移により支配的な影響を与えているかの実験的な証拠を得る。以上により、スピン流がFeRhのメタ磁性転移に及ぼすダイナミクスとその起源について統一的に理解し、本研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度にFeRh薄膜の強磁性状態においてFeRh中に生成した静磁表面弾性スピン波が20マイクロメートル以上のスピン波減衰長を持つことを観測することに成功した。そのため、スピン波の減衰過程についてのより精密な計測をするためのスピン波計測装置の改良および測定用試料を作製するための材料費を次年度に繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の未使用金とH28年度分として請求した研究費とを合わせて、当初計画を達成するためにH26年度に設置したスピン波計測装置のプローブ部分を改良することを計画している。また、FeRh等の試料作製用材料、真空部品、電子部品、その他消耗品を購入するための費用として活用する計画である。
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