反強磁性秩序と強磁性秩序が拮抗した物質においては、磁場を印加することで反強磁性-強磁性メタ磁性転移等の興味深い磁性の発現が期待される。一方で、このような系においては正味の電荷移動を伴わないスピン角運動量の流れ(純スピン流)を注入することで、その磁性が大きな影響を受けると期待される。本研究では、このようなスピン流などの外部摂動が磁性に与える影響を調査することを通して、磁気秩序を制御するための新手法の提案と実証を目的としている。
上記の目的を達成する研究の一環として、本年度は純スピン流の生成とそれによる磁性への影響を調べた。純スピン流は大きなスピン偏極率を持つホイスラー合金を用いて非局所電極配置における通電により生成した。生成された純スピン流の磁性への影響を評価するために希薄磁性合金薄膜を用いた。希薄磁性合金薄膜に純スピン流を注入した結果、低温における近藤シングレット状態の抑制効果と純スピン流密度の増大に伴うスピン信号強度の増大効果を観測することに成功し、純スピン流が磁気秩序に大きな影響を与えることが見出された。 また、反強磁性FeRhに強磁性体からスピン波を注入した際の強磁性/反強磁性界面を介したスピン波の伝播特性の評価に基づいて、強磁性体から反強磁性FeRhへのスピン角運動量の移行(注入)効果について調査した。具体的には初年度に導入したベクトルネットワークアナライザーを用いて界面におけるスピン波の吸収効果を計測した。その結果、反強磁性FeRhによるスピン波の顕著な吸収が界面で発現することが見出された。 以上、純スピン流とスピン波が共に角運動量の流れであることを考慮すると、本研究において見出された結果は、スピン流が磁気秩序に顕著な影響を与え、結果としてスピン流により磁気秩序を制御可能であることを示唆するものである。
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