研究実績の概要 |
(a) Bの固溶形態の解明:イオンチャネリング実験によりα鉄中に固溶したBの存在位置を決定する試みを,京都大学工学研究科附属量子理工学教育研究センターのマイクロビーム装置を用いて再開した.B濃度(モル分率)が26と88 ppmの粗大結晶粒試料で予備実験をおこない (p, α) 核反応により発生するα粒子を検出できたが,そののちBを固溶状態に保った単結晶試料の作製が難航しチャネリング実験に至らなかった.今後継続して試みる.侵入型に固溶している場合に期待される応力誘起再配向による擬弾性緩和の有無を調べる実験では,B濃度が50および80 ppm程度のFe-B希薄合金試料を湿水素焼鈍処理することによって,不純物として含まれていたCおよびNの濃度低減に成功した.B濃度80 ppmの試料を1150 Kで溶体化して動的弾性率を測定したところ,振動数1 Hzで200 Kに緩和型の力学損失ピークが観測された.今後,その再現性を確かめる. (b) Bの固溶限の再検討:上述のFe-B希薄合金試料を1150 Kで溶体化して急冷しても電気抵抗率には有意な差は認められず,電気抵抗測定では精度の点から固溶限を決定することは難しいようである.他方,純鉄表面にFe-B合金層を真空蒸着して熱処理しBの拡散侵入をSIMS(二次イオン質量分析)で測定する実験では,種々の技術的工夫によってBの濃度分布を得られる目処が立ち,今後実験を進めて固溶限と拡散係数を求めることができる可能性が見えてきた. (c1) Bの長距離拡散の測定:上述のように,試料表面に堆積させたFe-B合金層をB源とした拡散実験(SIMSによる濃度分布測定)によって拡散係数を求められる見通しがある. (c2) Bの短距離拡散の測定:項目 (a) の最後に述べた力学損失ピークが侵入型に固溶したB原子の応力誘起再配向に起因するものであれば,そこから拡散ジャンプ頻度が求められ,存在サイトがチャネリング実験で明らかになれば拡散係数を計算することができる.この研究も継続する.
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