研究課題/領域番号 |
26289233
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
雨澤 浩史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90263136)
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研究分担者 |
八代 圭司 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (20323107)
中村 崇司 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (20643232)
井口 史匡 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00361113)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 軟X線吸収分光 / 軟X線発光分光 / オペランド測定 / 機能性酸化物 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
本研究では,酸化物材料の機能性発現に深く関与する電子構造を,高温,特殊雰囲気,通電など,材料が用いられる様々な特殊環境下で明らかにすることのできる「軟X線吸収・発光分光同時測定技術」を世界に先駆けて開発することを目的とした。 本年度は,高温,酸素分圧を制御した大気圧下における軟X線吸収・発光分光の同時測定装置・技術の確立に注力した。まず,試料周りに小型の白金ヒーターを設置することで,800℃以上の昇温を可能とした。また,試料チャンバーに,試料へのX線の入射,ならびに試料からの蛍光X線出射用に窒化ケイ素の薄膜からなる窓を設けることにより,全圧1 bar(Heベース),酸素分圧10-2 bar以下の条件において,0.5~1 keV程度の軟X線吸収・発光分光測定を可能とした。高温では,電気炉からの赤外光,可視光がバックグランドノイズとなり,これまで500℃以上の測定が困難であったが,窒化ケイ素窓に赤外光,可視光ブロック用の金属コートを施すことにより,少なくとも800℃までの測定が可能となった。 固体酸化物形燃料電池(SOFC)の空気極を想定し,酸化物イオン伝導体Ce0.9Gd0.1O1.95上に作製したLa0.6Sr0.4CoO3-d(LSC64)電極について,開発された軟X線吸収・発光分光の同時測定装置・技術を適用した。Co L殻,O K殻での測定より,同材料の結合や反応に寄与すると考えられるCo 3d軌道,O 2p軌道における通電時に伴う電子構造変化ならびに酸素ポテンシャル変化をその場測定することに成功した。 以上,本研究では,高温,特殊雰囲気,通電下での「軟X線吸収・発光分光同時測定」に世界で初めて成功した。本研究で確立された新規その場測定技術は,様々な特殊環境下で使用される機能性酸化物の電子構造評価を可能とするものであり,その学術・工学的意義は高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主目標としていた,特殊環境(高温,特殊雰囲気,通電)下における「軟X線吸収・発光分光同時測定技術」の開発については達成された。特に,次年度以降に予定していた500℃以上の高温測定への適用については,可視光ブロック用に金属コートした窒化ケイ素窓を用いることにより,前倒しで実施することができた。また,開発された手法を用い,La0.6Sr0.4CoO3-(LSC64)電極の高温(600-800℃),酸素分圧制御(10-4-10-2 bar),通電下の軟X線吸収・発光分光同時測定に成功した。以上のように,研究の進捗についてはおおむね順調と判断している。ただし,成果発表に関しては,成果に対する学術論文等の数は十分とは言えず,これについては次年度に改善する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の進捗についてはおおむね順調であり,次年度もほぼ当初計画に即した形での研究を予定している。測定技術については,次年度に予定していた高温(500℃以上)での測定が今年度に達成できたことを受け,最終年度に予定している位置分解測定を前倒しで実施する。測定としては面内方向,深さ方向の位置分解測定が考えられるが,次年度はより表面敏感な測定技術の確立を中心に新しい測定技術の確立を目指す。一方,測定対象については,今年度に実施した固体酸化物形燃料電池電極を引き続き用いることを考えており,より多様な材料,詳細な条件での電子構造のその場評価を予定している。特に,異なる電極材料の電子構造評価を行うことにより,電極触媒活性と電子構造の相関について明らかにすることを目指す。以上を通して,研究課題である「軟X線吸収・発光分光同時測定による機能性酸化物の電子構造のオペランド評価」の最終年度での完遂に向けた足固めを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,固体酸化物形燃料電池材料の分析を念頭に,特殊環境(高温,制御雰囲気,通電)下での軟X線吸収・発光分光同時測定用の試料ホルダを新たに製作することを予定していた。しかし,研究代表者が本研究課題開始までに開発してきた軟X線吸収測定用の試料ホルダに改良を施すことにより,当初目指してきた測定が可能であることが明らかとなった。また,これに伴い,試料ホルダ周りの部品も共通の物を使用できることができた。以上から,今年度に使用を予定した予算を使用しなかった。これを用い,次年度に全固体蓄電材料へと測定対象を広げ,新たに試料ホルダを作製することで,異なる環境下での軟X線吸収・発光分光同時測定を可能にする。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に全固体蓄電材料へと測定対象を広げ,特殊環境下での軟X線吸収・発光分光同時測定を可能とする新たな軟X線吸収・発光分光同時測定用の試料ホルダを新たに製作する。これは,これまでに実施してきた研究とは異なる特殊環境下での測定を可能とし,本研究の目指す目的を高いレベルで達成し得るものである。
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