研究課題/領域番号 |
26289236
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
竹内 恒博 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00293655)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱ダイオード / 熱整流 / 電子熱伝導度 / 格子熱伝導度 |
研究実績の概要 |
フェルミ準位近傍の数百meV程度の範囲に微細な電子構造がある場合,ビーデマン・フランツ則では説明できない異常な電子熱伝導度が観測される.本研究ではこの異常電子熱伝導度の制御指針を構築するとともに,構築した指針に基づき,室温以上の温度領域において熱伝導度が一桁以上変化する材料を創製し,その材料を用いて革新的な熱流制御デバイスを開発することを目的としている. 平成27年度に実施した研究において,「熱整流効果の最大値の見積もり」, および,「狭い温度領域で熱伝導度が大きく変化する材料の探索」に取り組み,以下の成果を得た. 熱伝導度が温度の一次関数で変化する材料を組み合わせた場合,熱整流比の最大値は3になる.また,2次関数として変化する材料を用いた場合には,その値は7になる.同様にn次関数の場合には,最大が(2n+1-1)となる.この考察から,熱整流比を3異常にすることは困難であるが不可能ではなく,その上限値も∞であることを見いだした. 狭い温度領域で熱伝導度が著しく変化する材料として,120℃付近に規則-不規則相変態を示すAg2Teに着目した.Ag2TeのTeをSeやSで置換した場合に,相変態温度が著しく変化することを見いだし,これらのAg2Ch(Ch=Te, Se, S)の熱伝導度の挙動を調べた.数℃の測定間隔で詳細に熱伝導度を調べた結果,熱伝導度にピークが生じ,熱伝導度は2倍~3倍に増大することを明らかにした.さらに,Ag2SeのSeをSで部分置換することで,熱伝導度のピークとともに相変態温度が実際に変化することを確認した.Ag2SeとAg1.85Cu0.1Pd0.05Seを用いた場合,15℃程度の温度差で2倍を超える熱整流比が観測可能であることを計算から予測し,1.8倍にも達する熱整流効果を実測することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準結晶材料において熱整流比が2を超える熱整流素子を開発した.また.Ag2Ch(Ch = S, Se, Te)を用いて,狭い温度領域で動作し,熱整流比が1.8を示す材料の開発にも成功している.前者は微細電子構造に由来する異常電子熱伝導度を.後者は.格子振動の非調和性に由来する異常格子熱伝導度を利用している.いずれの材料においても,異常熱伝導度の機構の解明に至っているとともに,素子の作製まで進んでいることから,計画は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果を基に,今年度の研究として下記の研究を実施する. 【Ag2Ch系材料の熱流制御材料としての最適化】平成27年度の研究により,Ag2Ch系材料の特徴が明らかになりつつある.しかしながら,最大の熱伝導度変化を得るための条件や組成が明らかになった訳ではなく,熱整流材料(熱ダイオード),熱スイッチ材料として実用化するためには,最大の熱伝導度変化を得るための条件や組成を解明することが急務である.そこで,最も大きな熱伝導度変化を示したAg2Seを中心に,エントロピーと内部エネルギーの観点から相変態温度を制御し,観測される以上格子熱伝導度の制御指針を構築する. 【Al基準結晶の電子熱伝導度を最大にする組成の探索】平成27年度においてAl基準結晶の熱伝導度を詳細に調べた.その結果,2014年度以前の測定に若干の問題があること,および,Re濃度が増えると擬ギャップ構造が変調を受け,熱伝導度の増大率が下がることが明らかになった.このことから,Reを0.5at.%以上導入することは得策ではなく,他の元素の導入が望ましいと考えられる.そこで,平成28年度には,他の重元素の利用によりAl-Cu-Fe系準結晶の熱伝導度変化を最適化する研究を進める.用いる重元素はRuとOsを想定する.Ruは4d遷移金属であるため,Reよりも格子熱伝導度低減効果は若干弱まるが,Al-Cu-Ru準結晶が安定相として存在することから,擬ギャップに変調を与えることなく,格子熱伝導度を低減できる可能性が高いと考える.また,Osは高価で有害であることからその使用を避けてきたが, Al-Cu-Os準結晶が熱力学的安定相として存在することから,Al-Cu-Fe準結晶のFeを極僅かなOsで置換することは大変興味深い. 上記の研究により.異常熱伝導度の制御指針を構築するとともに,構築した指針に基づき革新的な熱流制御デバイスを開発する.
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