前年度までの研究で明らかになった,β-CuGaO2の前駆体となるβ-NaGaO2はPVD法では化学量論組成を達成できないことを踏まえ,CVD法の一つであるミストCVD法によるβ-NaGaO2薄膜の作製を検討項目とした。超音波振動子と原料溶液からなるミスト発生部,基板上への薄膜堆積部を設計し,装置の組み立てを行った。β-NaGaO2はそれ自体が水溶性であるため,β-NaGaO2水溶液を原料溶液とした成膜から開始した。装置の設計および組み立てに時間を要したため,十分な検討はできていないが,この方法による化学量論組成のβ-NaGaO2高品質薄膜の作製は大いに期待できる。CVD薄膜堆積装置の作製と並行して,β-CuGaO2をはじめとする準安定なI-III-O2三元系ウルツ鉱型酸化物半導体の伝導性制御について検討した。n型伝導性の発現を狙い,TiO2をドープした前駆体β-Na(Ga0.99Ti0.01)O2-x前駆体を作製し,AgNO3-KNO3溶融塩中でNa+→Ag+イオン交換を行いβ-Ag(Ga0.99Ti0.01)O2-xを得た。ドープしていないβ-AgGaO2の電気伝導度は,室温で10-6 Scm-1であるのに対し,β-Ag(Ga0.99Ti0.01)O2-x のそれは5×10-2 Scm-1であり,TiO2のドープにより伝導度は10000倍に増加した。p型伝導性の発現を狙いβ-Na(Ga1-yBey)O2-x前駆体を作製した。y<0.03ではBeの固溶はできたが,Na+→Cu+イオン交換後のβ-Cu(Ga0.97Be0.03)O2-xの伝導度にはドープしていない試料からの大きな伝導度の増加は見られなかった。前駆体に不純物元素をドープし,それをイオン交換することで伝導性制御が可能であることが示されたが,キャリアとならない場合もあり今後さらなる検討が必要である。
|