研究課題/領域番号 |
26289246
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
池田 輝之 茨城大学, 工学部, 教授 (40314421)
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研究分担者 |
鵜殿 治彦 茨城大学, 工学部, 教授 (10282279)
太田 弘道 茨城大学, 工学部, 教授 (70168946)
永野 隆敏 茨城大学, 工学部, 講師 (70343621)
篠嶋 妥 茨城大学, 工学部, 教授 (80187137)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ構造化熱電材料 / 相変態 / フォノン散乱 / 固溶度 / バンド構造 |
研究実績の概要 |
環境低負荷型の熱電材料 Si及びMg2Siについて,相変態を利用したナノ構造化を試みた. Mg2Si にSi を添加し,高エネルギーボールミリングを施すことにより,Mg2Si 中に Si を強制固溶させることが可能であることを見出した.この状態は非平衡状態であり,大きな Si 析出の駆動力が働き,熱処理によりナノ複合体が形成される.Mg2Si は酸素との反応性が高いため,微粉化過程で著しく酸化してしまう問題も,雰囲気の精密制御により解決した.また,母相Mg2Siからの析出物Siの生成・成長過程についてはPhase-Field法によりシミュレートした.その結果,母相Mg2Siから析出するSiの形状は,アイゲン歪みのある場合,初期の球状からレンズ状に変わる.アイゲン歪みのない場合,析出するSiの形状は等方体になる.母相Mg2SiからSiが析出する際に,アイゲン歪みを有効に活用できれば,組織がラス状となりフォノン散乱を活発にして熱伝導を低下させることが分かった.さらに,Mg2Si と Si の界面状態の解明に向け第一原理計算を行い,界面近傍では,Mg2Si相とSi相のどちらも近づく方向に原子が移動することが分かった.すなわち,Mg2SiとSiの界面では非整合界面を作りやすい. Si については,ドーパントとして Sb を選定し,Sb を Si 中に強制固溶させる実験を行った.ボールミリングを行い,粉末X線回折図形を調べると,ボールミリング 15 分では,Sb のピークが確認できるが,16 h 後には,確認できなかった.このことは,16 h のボールミリングにより Sb が Si に固溶したことを示唆する.室温でのSb の平衡固溶度は 1% 以下であるため,上記の状態は,Si 中に Sb が強制固溶した状態である. また,材料の組成-材料組織,組成-熱伝導率の相関相関を効率よく調べるため,微小領域での熱拡散率の測定技術を広い領域 (cm オーダー) にわたり適用するための技術を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画していた研究項目は,(1) シリコン,シリサイドのナノコンポジット化,(2) ナノコンポジット化熱電材料の界面エネルギーについての知見を得ること,である. (1) については,シリコン中にアンチモンのナノ粒子,及び, Mg2Si 中にシリコンのナノ粒子をそれぞれ固相析出させるための実験を行った.いずれも,高エネルギーボールミルにより,ナノレベルのサイズをもつ粒子を析出させるに必要な過飽和固溶体の形成を確認できた.シリコンについては,アンチモン以外に,リン及びホウ素によるナノ構造化の実験も開始している. (2) については,第一原理による計算で Mg2Si と Si がつくる界面の微視的構造に関する知見が得られた.今後,ナノコンポジット構造の形成や安定性,さらに,界面における電子・熱伝導の解明に向け,大きな道が拓けた. また,来年度以降の研究を大きく進展させると期待される次のような成果が得られた.H27年度に,ナノコンポジット構造の組織形成をシミュレーションで追う研究を計画しているが,その予備的な段階として,母相Mg2Siからの析出物Siの生成・成長過程をPhase-Field法によりシミュレートし,母相Mg2SiからSiが析出する際に,アイゲン歪みを有効に活用できれば,組織がラス状となりフォノン散乱を活発にして熱伝導を低下させ,熱電性能の向上が見込まれるという,実験指針に関わる結果を得た意義は大きい.さらに,熱伝導率とナノ構造の関わりをより効率よく研究する手法として,熱拡散率のハイスループット測定法を開発し,実用段階に至った.来年度からの熱物性とナノ構造の関わりを解明する研究に応用できる有意義な成果である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ナノコンポジットされた系について,構造を定量化し,形態及びサイズの精密制御を行う.形態制御は化合物系の選択及び組成制御により,サイズ制御は相変態理論に照らした熱処理条件の調整により行う.組織形成シミュレーションを行い,界面密度を最大化する条件及び組織の安定性についての知見を得る.また,熱電特性を測定し,熱電特性に対するナノコンポジット構造の影響を定量的に示す.この際,ナノ構造の形態,界面密度,密度/弾性率コントラスト,界面構造 (界面の整合性など),二相間の電気的性質の違いに着目する.材料の均質性やマイクロメートルサイズの構造の熱伝導率への影響を明らかにするため,熱物性顕微鏡法による熱物性測定も合わせて行う. 固溶度はドーピング可能な最大キャリア濃度を決め,zT の最大化に大きな影響をもつ.ホール効果測定とX線回折実験を併用し,キャリア濃度及び母相に固溶している元素の固溶度を決定する.界面エネルギーのデータと固溶度,及び分散させたナノ粒子のサイズの関係から,ナノ析出物の平衡固溶度に対する影響を明らかにする. バンドギャップは,高温で少数キャリアが励起され始める温度を決める因子として重要である.まず,ナノコンポジット化により導入された歪みをフォトルミネセンス法により,実験と計算の両面から評価する.その上で,バンドギャップを測定し,歪みのデータとの関連を明らかにする.一方で,第1原理から歪みとバンドギャップの関係を計算し,実験データと比較検討する.普遍的に利用できる知見とするため,結果を「ナノ構造化によりバンドギャップを制御する」観点で整理する. ナノ構造とバンドギャップ,ドーパント平衡固溶度,熱電特性の関係を体系化し,zT を向上させる条件を明らかにする.体系化された条件に照らして,熱電特性を最適化し,熱電性能指数を最大化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
高温焼結装置に必要な仕様が,実験を実際にしてみなければ確定できない部分があったたため,平成26年度ではその部分は除いて最低限の仕様として装置を購入した.そのため,当初予定していた金額よりも低い金額となったため.
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次年度使用額の使用計画 |
高温焼結装置において,実験をしなければ仕様を確定できなかった部分の仕様が,実験を行うことにより明らかになってきた.その部分の物品の購入に使用する予定である.
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