研究課題/領域番号 |
26289249
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齋藤 彰 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90294024)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造色 / 乱雑さ / モルフォ蝶 / プロセス / 生物模倣 / ナノ / 光材料、光輝材 / バイオミメティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、モルフォ蝶の巧妙な光学ナノ構造に基づく「高機能な発色材の開発」であり、基本作製プロセスは「乱雑ナノパターニング」と「多層膜蒸着」の2段階で構成される。H27年度は、H26年度に基板フリー・フレキシブル発色膜の作製について、予想外にいくつかの方向で進捗が得られたのを受けて(本来は3番目に行う内容であった)、引き続きフレキシブル発色膜の開発を継続した。これは全体計画の視点と、実験環境の整備に鑑みて、研究計画を前倒しで試みた結果である。作製プロセスを工夫した結果、モルフォ固有の発色特性をある程度有するフレキシブル膜はH26年度にほぼ作れたが、その工程を可能にする基本原理が解明できていなかった。それが新たなアンカー効果・クランプ効果であることが判り、またフレキシブルの本質である「曲げ状態下」の挙動(曲げ状態の光特性には一見して予想や直観と矛盾する点や、不明点が多数あった)で新たな知見が得られた。また、基板フリー化(ナノインプリント樹脂と多層膜部のみの剥離)に加え、モールドとレプリカ(レプリカは上記の基板フリー発色体に、大強度のフレキシブル膜を添付)双方のフレキシブル化が実現できた(この結果、ナノインプリントによる量産化において、形状の自由度が大きく増す)。やはりこの場合も、それぞれの発色体は、モルフォ発色の光特性をもつことが確認できた。 さらに標記課題の新たな意義として、よりグローバルな観点からバイオミメティクスという枠組みが顕在化し始め(国際標準化の策定が始まるなど)、本分野の国際動向と連結して新たな価値(特に産業上の価値)も見出された。上記を受けて、実績として論文2、書籍2、解説3、口頭発表12(うち国際4)、新聞記事1、などの成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標である複合プロセスの開発に対し、本来は将来計画(H28年4月~)であった基板フリー・フレキシブル発色膜の作製について、H26年度に続いていくつもの方向で進捗が得られた点は、「当初の計画以上の進展が得られた」点である。H26年度のフレキシブル膜は、平らな状態でほぼ従来と遜色のない発色特性が得られていたが、誘電体多層膜の曲げ状態における特性・構造に関しては、一見して予想や直観と矛盾する結果があった。しかし、詳細な観察と考察の結果、新たな効果(アンカー効果とクランプ効果)の原理・機構が判り、プロセスのメカニズムについて特性と構造の全体を矛盾なく説明できるに至った。その結果、プロセスの理解が進み、その応用と改良などの展開がより着実にできるようになった。基板フリー・フレキシブル化は、数多くの困難が予想されたため後半の計画であったが、これを前半に達成できたことは大きな進捗である。さらに、モールド・レプリカ双方のフレキシブル化というプロセスも開発が進み、ほぼモルフォ特性が得られると確認できている。 一方で、それで「当初の計画以上の進展」とならないのは、上記の前倒しで行った計画実施とは別に、当初は最初に行う予定だった「ナノの乱雑さ制御(レーザ加工と砥粒加工を利用)」による光特性制御に時間がかかっているからである。たしかに上記のフレキシブル発色膜の作製時、レーザ加工と砥粒加工自体は実施しており、その意味ではナノの乱雑さ制御も行っている。しかし制御性が予想以上に困難で、今も工夫の途上である。この基板加工の段階では、面内長軸方向にてある乱雑さ分布をもつ凹凸作製が設計の肝である。時間・コストの大幅改良に向けレーザ加工で高速・大面積ナノパターンを作り、一定の成果を得たが、パラメータ制御は不十分であったため、総合的に上記の達成度となった。
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今後の研究の推進方策 |
基本は、1) 複合プロセス(レーザと砥粒加工)による超高速・大面積作製と、2)「ナノの乱雑さ設計」による光特性制御である。しかしH26~27年度に得られた異なる方向での予想外の進捗と(成膜の新ノウハウ獲得、前倒しのフレキシブル基板作製、その機構解明)、逆にレーザ加工(自体でなくその精密制御)の困難さに鑑みて、1)2)とともに、3)フレキシブル基板(はほぼできたが)かつ大面積基板、を作製する。1)2) は不可分で、試作段階の1) 複合プロセスに、2)「乱雑さの光効果」の計算を加味し、「乱雑さ設計」による効率的な超高速作製プロセスを確立する(H27年度から2カ年計画)。 1)2)のうち1)のプロセスは、特殊な乱雑ナノパターニングと多層膜蒸着の2段階で構成される。2段のうちH26年度に得た後段(蒸着時)の新ノウハウ(成膜の下処理、特に黒化処理)を糧に、H27年度に前段の詰めを行ったが、制御性が予想以上に困難で、今も途上である。この前段では、面内長軸方向に所定の乱雑さ分布をもつ凹凸作製が設計の肝であり、このナノ形状が発色原理の主要部をなす。時間・コストの大幅改良に向けレーザ加工で高速・大面積ナノパターンを作り、一定の成果を得たがまた未完のため、引き続きこのパラメータ制御を、作製と上記2) 計算(面内の乱雑さの光効果)両面から詰める。 1)2)に加え、3)フレキシブルかつ大面積な基板作製を行う。1)の大面積には上記の困難があるが、一方、3)のフレキシブルはH26年~27年度、先に進捗した。その結果、大面積かつフレキシブル、は、あと大面積の困難を克服すれば目途が立つ。詳細は前項の通りで、フレキシブルの肝である「曲げ状態下」の諸々の謎の解明が進んだので、上述した新たなアンカー原理も活かし、上の1)2)3)を行う。同時に、本課題の後半に入るため、動的制御も、作製原理の検証を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
一見すると、次年度使用額384,027円は比較的多い額に見えるが、500,000円の前倒し増額をした上での経緯である。それぞれ前倒しと次年度使用額の理由は明快で、前倒しはH27年度に、研究の進捗上、JCM-5000用試料回転傾斜ホルダ(442,099円)が必須となったためである。一方、それならば前倒し500,000円のうち57,911円の次年度使用額になる筈であるが、384,027円となった理由は海外の学会(米国Las Vegasで2016年3月に行われたSPIE)を急遽、とりやめた結果である。この学会は申請者が委員をしている関係上、過去の例から当然の出席を予定していたが、国内の重要な行事との干渉があり、やむを得ない事態であった。
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次年度使用額の使用計画 |
もともとH28年度にとっては、H28年度から500,000円をH27年度に前倒しし、しかしその前倒しとは別の理由で384,027円を繰り越したため、計画当初の年間予算からは115,973円の相違(不足)である。本予算全体は、当初の予定通り、おもに加工費用および、物品購入で使用する予定であり、上記の額は比較的少額のため、計画に変更をきたすことなく、いわゆるやりくりで補完できる内容である。
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