研究課題/領域番号 |
26289254
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
宮武 健治 山梨大学, 総合研究部, 教授 (50277761)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 機能性高分子 / イオノマー / 膜電極接合体 |
研究実績の概要 |
昨年度には梯子型構造を導入することによりフッ素フリー高分子電解質膜の物性が大きく向上することを見出している。本年度は芳香族系高分子電解質膜の物性を更に向上させることを目的として、疎水部構造の効果を検討した。具体的には、SPP-bl-1(エーテルや極性基を含む)、SPP-QP(エーテルや極性基を含まない)を合成し、膜のモルフォロジー、含水率、プロトン導電率、機械特性、ガス透過性、化学安定性などを解析した。 80 °Cにおける膜の含水率およびプロトン導電率の湿度依存性を測定したところ、SPP-bl-1の含水率は、全湿度範囲においてSPP-QPよりも高い値を示した。これは、SPP-bl-1の高いIEC値に起因する。高湿度条件下においては、SPP-bl-1、SPP-QPともにNafionよりも高いプロトン導電率を示した。さらにSPP-bl-1は、全湿度範囲においてNafionと同等以上の極めて高いプロトン導電率を達成した。他方SPP-QPは、低湿度条件下においてNafionを下回る導電率を示した。これは、SPP-QPのIEC値、プロトン導電パスのサイズや連結性が十分でないためと思われる。酸化安定性試験後のSPP-bl-1膜は細かく破断し、残存した固体の重量、分子量、滴定IEC値は数%程度以下であった。これはSPP-bl-1疎水部構造中に含まれるエーテル主鎖が、フェントン試験中に発生するOHラジカルによる求電子反応により切断したためと考えられる。他方、SPP-QP膜は試験後も膜の形状、強度、柔軟性、透明性を維持し、残存重量、分子量、滴定IEC値の保持率は99%程度であった。SPP-QP膜の極めて高い酸化安定性は、構造中にエーテルなどのヘテロ結合を含まないことに起因すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芳香族高分子電解質の疎水部構造の役割を明らかにし、この結果を基に分子設計を行うことにより、プロトン導電性と安定性を飛躍的に向上させた新型の電解質薄膜を開発することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ空間と吸着界面構造を規制したイオノマー被覆白金担持触媒は、研究代表者らが提案している既知の方法によりガス拡散層上へ塗布しガス拡散電極とする。具体的には、水やアルコールなどに分散したイオノマー被覆触媒ペーストを、バーコータやスプレーコートにより気体拡散層(カーボンペーパー上に撥水化カーボンの層を設けたもの)に塗布する。このガス拡散電極2枚の間にプロトン導電膜を挟持してホットプレスを行い、膜電極接合体(MEA)を作製する。プロトン導電膜は前年度までに選定したものを使用する。燃料電池運転試験は温度(70~120℃)、燃料・酸素利用率(5~70%)、湿度(40~100%RH)を変化させながら水素/酸素(または空気)で運転し、カソード・アノード各電位、および電解質膜抵抗を独立に測定しながら電流電位特性を評価する。評価項目は、1.触媒利用率(900mVにおける電流密度)、2.酸素およびプロトンの拡散(低電流密度域におけるターフェル勾配)、3.実用域での性能(700mVにおける電流密度)、4.濃度分極(高電流密度域におけるターフェル関係からのずれ、および酸素・空気でのカソード電位差)、5.セル抵抗、とする。イオノマーの被覆構造や電解質のプロトン導電率・気体透過率と相関させながら整理し、最高性能となる3の条件を明らかにする。これら評価項目を電解質分子構造や電極触媒層構造へフィードバックしながら改善を行う。 耐久性評価は実用性を考慮して、1.開回路保持、2.起動・停止の繰り返し、3.負荷変動(セル電圧0.6V⇔0.9V)の3モードでそれぞれ個別に評価を行う。運転温度・湿度を変動パラメータとして、セル電圧、触媒利用率、電流電圧(I-V)特性の経時変化を観測する。最終的には、電解質材料ごとに性能と耐久性の相関図を作成する。すべての条件で満足する性能を示す化合物群を本研究期間のみで見出すことは困難であるため、各運転モードに適した材料や触媒構造を提案したい。
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