階層構造合金のミクロ組織構造と合金強度変化の関係づけを行った。すなわち、ニッケル基超合金におけるγ’相の配列を実験的に観察されているような<100>方向へ整然と並んだ形態と、実際にはみられない<100>方位とは傾いた角度を持って配列させた形態の二種類の組織形態を考えた。これらについて、母相γ相のひずみ量をノートン則に基づく塑性理論により求め、両組織形態におけるクリープ曲線をシミュレートした。その結果、(1)クリープ開始初期に応力軸に垂直なγ相中に選択的に非弾性ひずみが集中する様子が再現され、その後ラフト構造が形成された。(2)<100>方向にγ’相が並んだ組織と比較して、<100>方位とは傾いた角度を持った方向にγ’相を配列させた組織ではクリープひずみ速度が格段に大きいことが明らかとなった。この結果は、組織の不均一性がクリープ加速を生じる要因であることを示唆している。 一方、ラスマルテンサイト相については、これまで行われてこなかったラスそのものの構造をシミュレーションによって表現するとともに、その組織回復過程のフェーズフィールドシミュレーションを実施した。その結果、(i) ラスマルテンサイト相の形成によるひずみをすべりによって緩和するモデルと、すべり面間の格子面数ですべり変形量を表すパラメータにより、一つのマルテンサイトブロック中に複数のラス構造を表現することができた。さらに下部組織構造の境界に転位密度の高い領域が存在した。これはラス間の方位差がこれら転位によって生じることを示唆している。(ii) ラスマルテンサイト組織の回復を伴う階層構造の崩壊では、ブロックよりラスが先に崩壊し、その後ブロックが長軸構造から球形に近い組織に変化した。さらに、変態完了時点に多量に存在した転位は回復し、サブグレインに相当する形態を生じることがわかった。
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