構造材料の分野では変形双晶の利用による力学特性制御が重要視されているが,このためには変形双晶の核生成・成長に及ぼす因子の正確な理解と,核生成・成長機構の解明が必要不可欠である.本研究では新しい双晶変形仮説モデルを提案し,変形双晶の形成に及ぼす様々な因子を実験・理論の両面から検討することを通じて,モデルの妥当性の検証を行うことを目的とした.本年度は昨年度に引き続き,変形双晶やそれに類似の変形帯(キンク帯)の形成が知られている各種HCP金属,Mg-LPSO相,Ti3SiC2相(MAX相)の単結晶マイクロピラー圧縮による変形双晶あるいはキンク帯形成条件の検討ならびに走査透過電子顕微鏡法(STEM)による原子尺度での構造解析を中心に研究を行った.これまでにキンク帯形成が報告されているTi3SiC2相(MAX相)については,単結晶マイクロピラー圧縮を荷重軸の関数として行い,活動可能変形モードが底面すべりのみであること,底面すべりが活動できない条件(底面平行圧縮)では数GPaの圧縮応力を印加により塑性変形前に底面剥離破壊が生じたのち,さらなる応力印加によりキンク帯が形成することを実験的に明らかにした.さらにSTEM構造解析により,Ti3SiC2相中のキンク帯形成は従来のHess&Barrett型機構で理解できることを明らかにした.一方でMg-LPSO相中の変形帯(キンク帯あるいは変形双晶)は,単純なHess&Barrett型機構ではその形成が説明できず,観察された変形帯の形成は単純な格子のせん断だけでなく,原子の再配列を要することを明らかにした.またHCP金属のMg中の{1121}双晶の界面原子配列の観察から,このタイプの変形双晶の形成は単純な回転子型双晶変形仮説モデルでは説明できないような原子移動が生じていることを実験的に見出し,さらなるモデルの拡張が必要であることが明らかとなった.
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