研究課題/領域番号 |
26289261
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高田 潤 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (60093259)
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研究分担者 |
藤井 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (10222259)
宮田 直幸 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (20285191)
草野 圭弘 倉敷芸術科学大学, 芸術学部, 教授 (40279039)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物由来酸化鉄 / 硫酸酸性環境 / 単離菌 / pHの影響 / 相の形成速度 / メスバウアー分析 / シュベルマナイト / ゲータイト |
研究実績の概要 |
自然界での硫酸の高い強酸性(pH~3)の鉱山廃水や温泉廃水では、好酸性鉄酸化細菌が作るシュベルトナイトFe8O8(OH)8-2x(SO4)xなどの特殊な酸化鉄が生成し、砒素などの重金属を吸着し環境浄化に役立っている。しかし、この相が発見されて約20年しか経っていないため研究例が少ない上に、単離菌株を用いた実験室での培養の系統的研究がなされていないため、酸性環境下でバクテリアが作るオキシ水酸化鉄(以後、”酸性バイオ酸化鉄”)とその形成過程などの詳細は明らかでない。本研究では、分担者の宮田が最近単離に成功した単離菌”E10”を用いて、材料化学と微生物学の研究者が連携して系統的で多面的・総合的に研究し、酸性環境下での未開拓の酸性バイオ酸化鉄の特徴や形成過程について世界に先駆けた解明を目的とする。 H27年度に得られた研究実績の概要は次のとおりである。 (1)H27年度は主に37℃での単離菌”E10”による酸化鉄の形成を検討し、硫酸酸性環境下で形成する酸化鉄の種類はpHおよび温度に依存することを明らかにした。①37℃では、25℃に比較して、G相が低pH域で生成する。②pH2.5:シュベルトナイト(S相)単相、③pH3.5:ゲータイト(G相)ほぼ単相、④pH3.05:二相共存(S相+G相)。(2)微生物由来酸化鉄S相とG相のナノ構造と比表面積を明らかにした。①S相(pH3.0, 25℃): 1次粒子:巾~5nmの針状粒子。比表面積:30m2/g。②G相(pH3.5, 37℃):直径約5nmのナノ粒子。比表面積:133m2/g。 (3)Fe2+→Fe3+の酸化反応は、化学合成で要する時間(120h)と比較して、微生物によって著しく加速される。更に、37℃では25℃よりも短時間で終了する。①pH3.0では37℃で36h、②pH3.5では25℃で60hであるのに対して、37℃で30h。(4)機能開拓:①優れた重金属吸着機能をAs(Ⅴ),以外にSe(Ⅵ)およびMo(Ⅵ)で見出した。②S相はG相より顕著に吸着することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・上記「9.研究実績の概要」で示した成果は、すべて世界で初めてのものである。これは、分担者の宮田が最近単離に成功した単離菌”E10”の人工培養によって初めて得られたものである点は特筆すべきであり、当初の計画を超えるものである。 ・特に、(1)の強酸性環境下で形成される酸化鉄がpHのみならず培養温度に強く依存する点、(3)の酸化鉄の形成が微生物によって大きく加速され、培養温度に促進することを明らかにした点も重要である。更に、(4)の機能開拓で、As(Ⅴ),以外にSe(Ⅵ)およびMo(Ⅵ)の有害重金属の吸着機能を発見したことも従来の常識を超えるものであって、当初の計画からは予想外の顕著な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
H26およびH27年度は、微生物由来酸化鉄の特徴の解明、形成速度の検討、機能開拓の一部を明らかにしたので、H28年度も更にこれらを継続的に推進する。加えて、以下の点について検討する。 (1)酸化鉄形成プロセスの解明: バクテリアによる酸化鉄形成の促進効果を検討する。(2)機能開拓:重金属の吸着特性や顔料特性を検討する。 (2)鉱山廃水処理への応用の可能性の検討:高濃度硫酸を含む強酸性鉱山廃水の処理法として、異なるpHでの酸化物の制御結果(予備的研究)を利用し、実験室模擬廃水と実際の鉱山廃水(岡山県柵原鉱山)についてS相とG相の形成制御を試みる。
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