研究課題/領域番号 |
26289262
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土山 聡宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315106)
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研究分担者 |
中田 伸生 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50380580)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 軟質粒子分散鋼 / Cu粒子 / 析出 / 分解 / 電気抵抗 / 延性破壊 / 不均一変形 / ナノボイド |
研究実績の概要 |
本年度は、フェライト鋼中に分散する約30nmの軟質粒子(Cu)と硬質粒子(VC)を走査型電子顕微鏡(SEM)により広範囲に観察する手法を確立すること、さらに引張試試験した試料について、それらの粒子の変形挙動や粒子を起点としたボイド生成挙動を明らかにすることを目標とした。粒子の観察にはインレンズ検出器を装備したFE-SEM(ZEISS Ultra-55)を使用し、低加速電圧で観察を行った。研磨条件や観察条件を種々変化させて観察を行った結果、フェライト組織中に分散するCu、VC両粒子を明瞭に現出させ、かつ粒子の変形、粒子を起点としたナノボイドの発生、ならびにその連結によるマイクロボイド・クラックの発生挙動を観察する手法を確立した。得られた知見として、軟質粒子では、変形方向に伸張して界面で応力集中の緩和が起こるため、それを基点としたボイド発生は全く生じないが、硬質VC粒子の場合、基地との界面で高頻度にナノボイドが発生し、それらが連結して粗大なボイドやクラックに成長していく挙動を実験的に示した。つまり、前者は絞り変形能に優れるが、後者はそれに劣るというマクロな特性と良い対応関係が示された。本成果内容については、日本鉄鋼協会の講演大会で発表すると同時に、学術雑誌「熱処理」に投稿した。一方、その場中性子回折を実施することにより、引張試験時のCu粒子の相応力測定、ならびに塑性変形開始ひずみの実測を行った。また電気抵抗測定により、冷間加工に伴うCu粒子の分解挙動の定量評価を試みた。その結果、粒子径が30nm程度の過時効材については顕著な電気抵抗変化は認められなかったが、粒子径が10nm程度のピーク時効材では高ひずみ域で急激な電気抵抗の上昇が確認され、Cuの分解量を定量的に示す手法についても検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実験はすべて着手しており、データも順調に出つつある。とくに、SEMによる組織観察については、ナノスケールの分散粒子とその界面におけるナノボイドの生成や成長の観察に成功するなど、従来報告例のない新規的な成果も得られている。ただし、SEM内引張とDIC(デジタルイメージ相関法)解析を組み合わせたひずみ分布の可視化については、SEMによるナノサイズ粒子の観察手法が確立された現段階でようやく実験に着手する段階である。それが成功すれば本研究課題の最大の目標を達成することになるが、1年間の研究期間でその目処が付いた点は評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べた各研究をそのまま遂行し、信頼性の高いデータの収集を行う。とくに今年度は、①昨年度に確立した電気抵抗測定によるCu粒子分解の定量化手法を用いて、初期粒子径-加工率-分解量の関係を明確化すること、②低加速電圧SEM内でのその場引張試験によるCu粒子の変形挙動の調査、ならびに③軟質粒子、硬質粒子分散鋼によるナノスケール不均一変形挙動の解析、を主な課題として研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請段階で予定していた「SEM内その場観察用引張ステージ」の購入については、同様の機能有する装置が申請者の研究機関に導入されたため、H26年度の購入を見送ることとした。そのため、次年度使用額が生じることとなったが、H27年度はそれを有効に利用し、新たな備品購入を含めた研究計画を立案している。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度の研究成果により、電気抵抗測定による材料評価が極めて有効であることが判明した。H27年度はそれに関する実験に予算を投入し、多機能定電流電源の購入、液体ヘリウムの使用、専門研究機関への外注試験なども計画し、より精度の高いデータを獲得する予定である。
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