研究課題/領域番号 |
26289265
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研究機関 | 桐蔭横浜大学 |
研究代表者 |
宮坂 力 桐蔭横浜大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00350687)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機無機ハイブリッド材料 / ペロブスカイト / 光電変換 / 光物性 / ナノ材料創製 / 微結晶 |
研究実績の概要 |
鉛の一部をスズに置換したペロブスイカイト結晶CH3NH3Pb1-xSnxX3は、光吸収特性とバンドギャップがPb1-xSnxの混合モル比によってほぼ連続的に変化すること、メソ多孔薄膜に充填した結晶は、XRDによって分析した結果、Sn(II)の混合モル比が0.05~0.5の範囲のものは比較的安定性であり、Pb(II)含量の高いモル比0.05の組成は鉛ペロブスカイトに近い安定性と光吸収特性を示した。しかしながら、大気中の酸素との接触ではSn(II)がSn(IV)に酸化されSn(IV)の微量の混入によって固体物性が不安定となり、多くの構造欠陥が導入される傾向が明らかである。また光電変換素子の作製では、CH3NH3Pb1-xSnxX3の組成はPb100%組成に対して感光吸収の長波長化(集光の強化)は達成できるが、素子の開回路電圧が大きく低下するためにエネルギー変換効率が一方的に低下した。このため、改善として、Sn(II)に代えてビスマス(III)を金属カチオンに用いるペロブスカイト結晶を合成した。(CH3NH3)3 Bi2I9の組成の結晶の薄膜をスピン塗布によってTiO2多孔膜上に製膜した。薄膜の物性を評価した結果、吸光係数はPb、Sn系と同程度に高く波長620 nmまでの光吸収をもち、XRDによる結晶構造分析においても大気中で組成と物性が変化せず高い安定性を示した。(CH3NH3)3 Bi2I9を光吸収層に用いて光電変換素子を試作した結果、0.6Vの開回路電圧とエネルギー変換効率0.2 %が得られた。これは太陽スペクトルの光吸収能力(バンドギャップ)から期待される到達可能効率(約8%)からずっと低いが、この組成のペロブスカイトを使った光電変換素子として報告される値の最高値である (論文投稿中)。また、大気中に未封止の素子を暴露して性能安定性を調べた結果、10週間以上、光電変換が持続する安定性が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉛に代わる金属を用いる有機無機ペロブスカイト結晶として、ビスマス(III)を用いるペロブスカイト結晶が安定性と光吸収能力に優れ、溶液塗布によって製膜できることが示された。ビスマスのみを金属に用いる無鉛系の光電変換素子から、この材料としては最も高いエネルギー変換効率0.2%の光電変換特性が得られ、大気中の極めて高い安定性を明らかにした。しかし、エネルギー変換の損失が大きい理由として、結晶膜の質(平坦性、緻密性)が悪い点と電荷輸送層との接合として界面の構造が不連続であり欠陥の多い点が問題であり、これらの改善が課題であることを明確化した。
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今後の研究の推進方策 |
基礎的な素材の物性評価としてペロブスカイト結晶の合成と光物性の計測を行うとともに、工学的研究として、薄膜として用いる結晶の質を高めるための溶液製膜方法の改良を検討する。結晶膜の質(平坦性、緻密性)を高めるために、結晶成長の速度コントロールにはたらく添加剤(原料溶液、ならびに結晶成長の下地基板の表面)の検討を行う。また、結晶の集光特性を高めるために、現在のビスマスに加えて他の金属カチオン(スズ、アンチモンなど)を複合したペロブスカイト結晶を合成し、より長波長に光吸収をチューニングする可能性を見出す研究を行う。 1.ペロブスカイト結晶を形成する下地として金属酸化物メソ多孔膜のAl2O3、TiO2、Nb2O3等を用いる方法のほか、有機系としてフラーレンなどの炭素材料を電子アクセプターと用い、界面における電荷再結合の小さい系を見出す。 2.ペロブスカイトに接合する正孔輸送層の最適化を行い、素子の出力電圧(開回路電圧)を高める改善を行う。現在用いている有機系低分子材料を、p型導電性高分子、あるいはNiOなどの無機半導体に置き換えて特性を比較する。 3.有機基をホルムアミディニウム、ブチルアンモニウム等を含めたサイズの大きな有機基に置き換えたペロブスカイト結晶の合成と評価を行い、熱安定性の改善と長波長吸収発現の可能性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な用薬品の購入(約12万円)のために見積もりを取って年度内の発注を考えていたが、メーカーに在庫が無く年内に納品のできないことがわかったために急遽、発注を次年度に延ばして発注することにしたため、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定していた実験用薬品をメーカー側が調達し購入可能になり次第に、この薬品の購入に使用する。
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