研究課題/領域番号 |
26289266
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
越崎 直人 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40344197)
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研究分担者 |
石川 善恵 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (20509129)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ材料 / パルス加熱 / 局所加熱 / 球状粒子 / 表面処理 |
研究実績の概要 |
液体中に分散した熱容量の小さい粒子に選択的にパルスレーザー光エネルギーを吸収させて溶融を引き起こさせることで金属やセラミックスの結晶性サブミクロン球状粒子の作製する「液中レーザー溶融法」を開発した。この手法の本質は「局所的短パルス加熱」であり、従来の材料プロセスの「大空間長時間均一加熱」の対極をなす加熱法であるが、実際にその過程で起こっている現象の詳細は明らかになっていない。本研究ではこのプロセスのメカニズムを明らかにすることを目指して研究を進めた。そのアプローチとしては、(1)生成物からのプロセス評価、(2)高速分光評価、(3)シミュレーションによる解析、を当面取りあげた。 本年度は、特に(1)と(3)に関する検討を進めた。具体的には、パルス幅の異なるレーザー光を利用して酸化亜鉛のサブミクロン球状粒子を作製し、得られた粒子の形態観察からサブミクロン球状粒子生成レーザーフルーエンスのしきい値に及ぼすレーザーパルス幅の効果について検討した。その結果、パルス幅が大きくなるにつれて、球状粒子が生成するレーザーフルーエンスの値が徐々に大きくなることがわかってきた。 これまでに、レーザー光が供給するエネルギーが全て粒子の加熱に使われたとすると、サブミクロン球状粒子の生成フルーエンスが比較的よく説明できることがわかっていた。しかし、本年度得られた実験結果は、上記の考えだけでは十分でないことを示しており、時間に依存する熱損失の効果を考慮する必要があることがわかってきた。 そこで、エネルギー損失を考慮に入れたモデルを用いてシミュレーションを行った結果、本実験系の実験結果をある程度説明できることを明らかにした。現在このモデルの精密化により、他の実験系のデータを説明できるかについて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、金属やセラミックスの結晶性サブミクロン球状粒子新しい作製法である「液中レーザー溶融法」において見られる「局所的短パルス加熱」の過程で起こっているメカニズムの詳細を解明することを目指して研究を進めた。そのアプローチとしては、(1)生成物からのプロセス評価、(2)高速分光評価、(3)シミュレーションによる解析、を当面取りあげたが、初年度は、特に(1)と(3)に関する検討を重点的に進めた。 加熱時間の違いを生じるレーザーパルス幅の違いが生成物に及ぼす影響を詳細に検討した結果、時間依存の熱損失の効果を考慮する必要が明らかになり、これに基づいたモデルのシミュレーション結果から、本実験系の実験結果をある程度説明できることを明らかにした。この結果から高温反応に及ぼす時間の効果など、これまでうまく説明できなかった実験事実を解釈が進むものと期待されることから、非常に大きな研究成果と考えている。 一方、(2)高速分光評価に関しては、実験装置上の問題からほとんど検討ができなかったが、実験系構築のための予備的な検討は行ってきた。高速分光計測を行うための最大の問題点は、対象物が液体中に分散しブラウン運動で移動している粒子であることである。現時点ではこのような系での観測に成功していないが、黒体輻射の測定から温度の推定が可能であることがわかってきている。今後、このような測定について検討を進めていく予定である。また、対象物を同様な現象が起こると考えられる平面状ターゲットを作製し、観測対象を固定して横方向から観察することが可能であることから、レーザー照射後に生成するプラズマ状態や衝撃波伝搬の様子、バブルが形成するかどうか、形成する場合はどのように成長・崩壊するかなどについて今後検討を進めていることを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、「局所的短パルス加熱」の過程で起こっているメカニズムの詳細を解明することを目指して、(1)生成物からのプロセス評価、(2)高速分光評価、(3)シミュレーションによる解析、を取りあげて検討を進めてきているが、今後もこの方向をさらに発展させていきたい。 (1)については、より短いパルス幅のレーザーを用いたときの生成物の評価やガス状の生成物の評価などについて、(2)については、同じ専攻内の分光計測の専門家と協力して意味あるデータの取得を目指していきたい。(3)については、今年度進めてきた物理化学的伝熱モデルに加えて、試料の温度変化がレーザー光のエネルギー投入とともにどのような時間スケールで進行するかを、レーザー照射による過渡的な光吸収とこれによって引き起こされた熱伝導の練成偏微分方程式をシミュレーションにより解析することで、現象の全体像を理解することを目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画で取りあげた「(2)高速分光評価」の部分が実験装置上の理由で、実験的にあまり行えなかったことから、次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、この部分に関連した消耗品などの購入を計画している。
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