研究課題/領域番号 |
26289269
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
福富 洋志 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90142265)
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研究分担者 |
鈴木 徹也 茨城大学, 工学部, 教授 (70261740)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高温加工 / 集合組織 / 無方向性電磁鋼板 / 有効応力 |
研究実績の概要 |
本年度の主たる目標は、引張りクリープ試験機を用いたStrain Transient Dip Testによる変形応力の解析、変形の状態方程式の実験的決定であった。Strain Transient Dip Testはいわゆる機械的微分試験の一種で、外力水準を急変した直後のひずみ速度を計測する手法である。このためには、応答性が高く、ひずみの測定精度の高いシステムを導入することが必要である。何通りかの方法を試みた。最終的にこの試験によりFe-3.0mass%Siの高温変形時の内部応力測定に成功した。実験結果は、有効応力の存在を示すもので、これまで提唱してきた優先動的結晶粒成長機構の一要因である、溶質原子雰囲気をひきずる転位の運動が主たる変形機構である場合に生ずるとの仮説を裏付ける結果となった。十分な精度での引張りクリープ試験が可能になったため、変形の状態方程式の決定についても実験を進めた。温度3条件、応力4条件での実験を計画し、70%程度まで進めることができた。 溶質原子雰囲気を引きずる転位の運動の効果が最も高いケースとそれほどではないケース について単軸圧縮変形した試料を対象に、EBSD法ならびにX線回折法により評価した。結果は仮説と対応するものであった。実用化を念頭に置いた、板厚方向の集合組織測定は、EBSD法により予備的に行ったが、中性子回折実験には至らなかった。しかし、試料作製条件はほぼ確定したので、次年度に実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実用無方向性電磁鋼板の製造技術を開発するため、Fe-Si合金の高温組織形成機構として提唱した仮説「優先動的結晶粒成長機構」を実験的に検討し、変形機構、組織形成機構に立脚した手法を開拓するとともに実用的に問題となる、板厚方向の集合組織分布、磁気特性への影響をも併せて検討するものである。変形機構の解明については有効応力の存在を確認するとともに、クリープの定常変形時の応力指数が典型的な固溶体合金であるAl-Mg合金と同様に3-4になることを見出し、予定の成果をあげることができた。 このような機械試験の他に本年度は透過型電子顕微鏡による転位分布の観察を予定していた。これは転位がサブグレインあるいはセル構造などの下部組織を形成しないことが、集合組織形成の際の蓄積エネルギーの結晶方位依存性を高めているとの仮説の検証実験であった。しかし、比較的応力の低い変形条件で結晶集合組織が先鋭化するため、転位密度は低く、分布状況を議論できるような観察はできなかった。今後は他の方法により、転位の分布状況を検討する必要があると結論した。 以上の状況から、達成度を自己判定した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究によって、機械試験による変形機構の検討については、クリープ試験による応力指数等の評価、、Strain Transient Dip Testによる応力の成分解析が問題なく実施できる状態になった。それゆえ、Fe-3.0mass%Si材についてはさらに変形条件を変えてこれらの視点からの調査を進める。溶質原子雰囲気の効果を如何に有効に活用するかは本手法の開発に重要なため、溶質濃度を変えた実験を進める。まずFe-4.0mass%Siについて検討するが、溶質濃度を低下させた試料も視野に入れている。集合組織と変形条件の関係の実験的把握については、熱間圧延による集合組織制御の可能性を吟味するため、Fe-3.0massSi材を対象に、ひずみ速度をさらに高くした実験を試みる。また、高温変形により導入された転位密度を減少させながら{001}繊維集合組織を発達させることが可能であると推測される二段階圧縮法についても実験を行う。二段階圧縮法も含め、多様な実験条件での実験成果から、変形条件を選択して、中性子回折による板厚方向の集合組織を含めた組織評価を進める。さらに、磁気特性については、外部委託により直流磁気特性、交流磁気特性の評価を実施する。モータの試作も視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
透過電子顕微鏡観察による転位の分布観察が困難であったことから、この方法を断念し、翌年度以降、他の方法による転位の分布状況観察を試みることとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
電子線回折法やX線回折法などの手法によるによる転位の分布観察のための試料作製に必要な物品費並びに人件費として使用する予定である。旅費は平成27年度以降の成果発表に使用する予定である。
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