平成28年度は,カーボンナノチューブ(CNT)複合めっき技術を活用して高容量でかつ優れたサイクル特性を有するリチウムイオン電池用スズ系負極構造を構築するために、(1)負極構造への熱処理が充放電特性に与える影響、(2)負極構造の作製方法が充放電特性に与える影響について調査した。 熱処理が充放電特性に与える影響については、スズの融点(232℃)を考慮し、固相拡散が起こる200℃とスズの融解と融解したスズへの銅の溶解が起こる250℃でそれぞれ真空中で熱処理し、微細構造変化および充放電特性変化を検討した。その結果、200℃では相互拡散によるCu6Sn5相の形成が確認されたが、充放電特性の明らかな向上は確認できなかった。これは熱処理無しの場合と同様に、200℃ではCNT表面に析出したスズが充放電試験によりCNTから滑落したためと考察された。一方、250℃ではCNT表面に析出したスズが融解することによりCNT表面から移動し、銅基板表面に析出したスズと一体化していた。また、熱処理時に融解スズへの銅の溶解が起こり、厚いCu6Sn5相の形成が形成した。この負極構造は熱処理前のサンプルと比較して明らかな充放電特性の向上が確認された。 負極構造の作製方法については、基板の銅と活物質であるスズの界面におけるCNT量を増大させる目的で、銅/CNT複合めっき膜表面に電気泳動法により多くのCNTを固定する手法を検討した。CNTの固定法として電気泳動法を用い、スズめっき法には無電解法を用いて、多量のCNTが界面に存在する負極構造の作製を可能とした。本手法により作製した負極は充放電サイクル試験50サイクル後においても、500 mA h g-1(現行グラファイトの1.3倍以上)の高容量を維持することを明らかにした。
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