研究課題/領域番号 |
26289271
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浜 孝之 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (10386633)
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研究分担者 |
高村 正人 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (00525595)
宅田 裕彦 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (20135528)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 結晶塑性有限要素法 / 加工硬化特性 / プレス加工 / 環境調和型加工 |
研究実績の概要 |
本年度得られた成果を以下に箇条書きで示す. ①IF鋼板(体心立方金属),工業用純チタン板およびマグネシウム合金鋳造板(ともに最密六方金属)を対象として,これまでに整備した材料試験装置を用いて各種の材料試験を行い,基準となる実験データを取得した. ②体心立方金属については,平成26年度の延長として,フェライト系単結晶の変形挙動をより高精度に予測するための技術検討を行った.その結果,non-Schmid則を考慮し,また{112}すべり系の双晶方向への活動に伴って生じる加工硬化を低下させることで,解析精度のさらなる向上を達成した.また,IF鋼板における応力緩和挙動の解析を行った.その結果,単結晶解析で開発したモデルを用いることで,種々の条件における応力緩和挙動を定性的に再現することができた.また,応力緩和時には弾性ひずみが塑性ひずみに置き換わる現象が生じていることが解析上で再現できた.一方,現状のモデルでは予測精度が定量的に未だ不十分であり,さらなる検討が必要なことが示唆された. ③圧延板とは全く異なる初期結晶方位分布を持つマグネシウム合金鋳造板の変形解析を行った.その結果,筆者らが提案した圧延板に対するパラメータ同定法が鋳造板に対しても有効であり,結晶塑性解析を用いてマグネシウム合金鋳造板の変形挙動を高精度に予測できることを示した.またそれにより,ランダムな初期方位を持つ鋳造板においても,双晶活動の非対称性に起因して圧縮変形と引張変形で異なる変形挙動を示すことが明らかとなった. ④工業用純チタン板に対する反転負荷試験の結果から,圧縮から引張への反転負荷を受けることで,マグネシウム合金板同様に双晶回復に起因してS字状に近い応力-ひずみ曲線を示すことが明らかとなった.このことから,工業用純チタン板の結晶塑性解析を行う上で,双晶回復を考慮することが重要であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度研究実績報告書における今後の研究の推進方策で挙げた,①整備した実験装置を用いて種々の材料における基準となる実験データを取得する,②鉄鋼材料を対象として単結晶解析で得られた知見を多結晶体解析に応用する,③マグネシウム合金圧延板に関する知見が他の最密六方金属にも適用可能かを調査する,という3項目を順調に遂行することができた.以上の結果を総合的に鑑みて,【おおむね順調に進展している】と判定した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究が順調に進展していることから,平成28年度も当初の予定通りに研究を推進する所存である.具体的には,以下の項目を実施予定である.また,最後に本研究を総括し,今後の課題を抽出する. ①体心立方金属については,単結晶解析に基づいて開発されたモデルでも多結晶体の変形を定量的に予測するには至らなかった.そこで新たな視点として,中性子により測定された格子ひずみの発展を評価対象項目に加え,モデルの妥当性や高精度な解析を行うための指針を検討する.これまでは,主として塑性変形とそれに伴う加工硬化を評価対象としてきたが,格子ひずみは弾性変形に起因する物理量であり,これまでとは異なる視点からの検討が可能となる.また,これまで中性子計測の結果を包括的な解析精度向上に利用する例は非常に少なく,全く新しい知見の獲得が期待される. ②平成27年度の研究で得られた実験データを用いて,結晶塑性モデルによる工業用純チタンの変形挙動解析を行う.具体的には,同じ六方晶金属であるマグネシウム合金解析における知見を応用することで純チタンに関するパラメータ同定法を提案し,種々の負荷経路における加工硬化挙動予測を試みる.ここでは主として,プレス成形性に重要な影響を及ぼしうる,反転負荷時の応力-ひずみ曲線や等塑性仕事面における異方硬化挙動の予測に焦点を当てる. ③以上の研究で確立された金属材料の加工硬化特性評価システムを用いて,プレス成形解析で利用可能な各種材料パラメータの同定を試みる.また同定されたパラメータを用いてプレス成形解析を行うことで,本研究で開発した一連の解析システムの有効性を検証する. ④結晶塑性解析による加工硬化特性評価を効率良く実施するために,計算の高速化に取り組み,結晶塑性解析の欠点である計算速度の問題の解決を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
試験片加工の発注を検討していたが,納品が年度をまたぐ可能性があったため,平成28年度になってから発注することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,実験研究で使用する供試材,試験片加工,ひずみゲージ,組織観察で用いる薬品などの消耗品を予算に計上している.出張旅費としては,EBSDによる組織観察を行うための大阪産業技術研究所への出張旅費,研究分担者の高村正人氏と打ち合わせするため理化学研究所への出張旅費,また,2回の国内会議,1回の国際会議に参加すると試算して参加旅費を計上している.
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