研究課題/領域番号 |
26289274
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 博昭 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70325504)
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研究分担者 |
大上 悟 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90264085)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複合電析 / 亜鉛 / バナジウム / 酸化物 / 耐食性 / 分極曲線 / 電流効率 / 流速 |
研究実績の概要 |
Zn2+,VO2+を含む硫酸塩水溶液から高流速撹拌下において,Zn-V酸化物複合電析の検討を行なった。本研究では電析を行う際,円柱状の陰極を回転させて陰極表面の相対液流速を変化させた。V酸化物の共析に及ぼす電流密度,液流速の影響を調べた。また,V酸化物を含有した電析Zn膜中のVの分布状態および分極特性を調べた。電析膜のV含有率は,何れの流速においても電流密度が高くなるほど一旦減少したが,更に電流密度が高くなると増加した。流速が速くなるほど,電析膜のV含有率と電流密度の関係を示す曲線が高電流密度側にシフトした。電解液を撹拌すると電析膜のV含有率は低下したが,V酸化物の分布はより均一となった。また,電析膜断面のEDX点分析より, V酸化物は電析膜の表面に濃縮していることが分かった。微小Sb電極法により電析時の陰極界面のpHを測定したところ,V2O4生成の臨界pHに近い pH4前後となっていることが分かった。3%NaCl水溶液中における電析膜の分極曲線より,Zn-V酸化物の腐食電位は,液の流速にかかわらずV含有率により変化し,V含有率が2mass%以下の領域ではV酸化物が共析することにより貴な方に移行することが分かった。V含有率が4mass%以下の領域では,V含有率が増加するほど電析膜の腐食電流密度は低下した。電解液を撹拌して得られた電析膜は静止液からの場合に比べその腐食電流密度が小さくなる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複合電析においては,液流速により各成分元素の拡散限界電流密度が変化することにより,電析膜組成,電流効率,表面外観等が大きな影響を受けることが予想されるが,詳細は不明であった。そこで本研究では,電析を行う際,円柱状の陰極を回転させて陰極表面の相対液流速を変化させる工夫を行ない,高流速撹拌下において,Zn-V酸化物複合電析のV酸化物の共析に及ぼす電流密度,液流速の影響を電気化学的理論に基づき解明することができた。また,V酸化物を含有した電析Zn膜中のVの分布状態および分極特性を明らかにし,本研究の複合電析により,鋼板の耐食性を大幅に改善できることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 活性金属酸化物への第4級アンモニウム塩の吸着量測定および吸着挙動のその場観察 キャピラリー電気泳動装置を用いて,陰極面および各種酸化物微粒子への第4級アンモニウム塩の吸着量を測定する。さらに,交流インピーダンス法により,電析Znの反応抵抗を測定し,第4級アンモニウム塩の吸着量とZn電析の反応抵抗の関係を調べる。これらの結果より,第4級アンモニウム塩の吸着能とアンモニウム塩の構造の関係を明らかにする。 2. 電析皮膜の各種性能に及ぼす活性金属酸化物ナノ微粒子共析の影響調査 Zn-活性金属酸化物複合膜の自己修復性の第一次評価を行うため,電解により膜を形成した後,カッターナイフにて素地Feに達する傷を入れ,塩水噴霧試験を行なう。傷部からの腐食の進行状況の程度により膜の自己修復性を評価する。複合膜自体の平均的な耐食性は,分極曲線,電気化学的インピーダンススペクトル測定により評価する。分極曲線は,複合膜を被覆させたFe板を30℃の3% NaCl水溶液に大気中で3時間浸漬した後,自然電位から卑な方向へ電位掃引法により20 mV/minの速度で分極させ,次に貴な方向へ分極させて測定する。また電気化学測定システムを用いてインピーダンススペクトルを解析する。 Zn-活性金属酸化物ナノ微粒子複合電析膜の耐食性,耐摩耗性,耐傷付き性,潤滑性,塗装性,耐抗菌性等の諸特性に及ぼす活性金属酸化物の含有率,酸化物微粒子の分散状態の影響を調査し,実用上最適な皮膜組成,皮膜形態を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の計画の一部では,Zn-活性金属酸化物の複合電析膜の微細構造を解明するため,X線回折,SEM, EPMA, ESCAを用いて,活性金属酸化物の共析サイズ,分散状態,電析膜の結晶構造(α,β,γ,…型),結晶配向性などを調査するため,解析費用を計上していたが,構造解析用の供試材の作製が予定通り進まず,構造解析に遅れが生じたため,一部の直接経費を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
構造解析用の供試材の作製条件を再度,探索して,X線回折,SEM, EPMA, ESCAを用いて,活性金属酸化物の共析サイズ,分散状態,電析膜の結晶構造(α,β,γ,…型),配向性などを明らかにする。繰り越した経費は,構造解析のために使用する。皮膜中の活性金属酸化物のサイズ,分散状態,結晶構造,配向性と電解条件(陰極電位,電流密度,液流速,第4級アンモニウム塩の種類,4級アンモニウム塩の組み合わせ,添加量,皮膜組成等)の関係を調べる。TEMにより再度詳しく微細構造を観察し,活性金属酸化物ナノ微粒子の結晶粒径を測定し,かつ分散状態を調べる。
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