研究実績の概要 |
Zn2+,Zrイオンを含む硫酸塩水溶液からZn-Zr酸化物の複合電析を行い,その電析挙動と得られた電析膜の構造,分極特性を調査した。前年度までの研究により,添加剤を含まない溶液からの電析では,電析膜中のZr酸化物の含有率が低かったので,添加剤として,NaNO3,ポリエチレングリコール(PEG)を用いて電析を行なった。 NaNO3添加浴での電析においては,NaNO3濃度2g/Lの時, いずれの電流密度においても, Zr含有率はNaNO3無添加浴に比べ大幅に増加した。これは, NO3-の還元反応により,陰極界面のpHが上昇して,Zrイオンの加水分解が促進されたためと考えられる。NaNO3を添加すると,電析膜にクラックが認められた。これは,陰極界面のpHが上昇により,Znが一部ZnOとして析出したためと考えられる。3%NaCl水溶液中における分極曲線より求めた腐食電流密度は,NaNO3添加時のZn-Zr酸化物複合膜の方が NaNO3無添加時のそれに比べて高くなった。これは,電析膜にクラックが生じたためと考えられる。 一方,PEG添加浴での電析においては,PEG濃度の増加に伴い, Zr含有率は増加した。この要因としては,Zn電析の過電圧増加により水素発生が促進されることとPEGによるZr酸化物と陰極面のバインダー効果が考えられる。5000A/m2で得られたZn-3.1mass%Zr複合膜は,SEM断面像とESCA分析より,素地直上では極薄の金属Znとして, 皮膜内部では金属ZnとZr酸化物の複合体として形成されていることが分かった。1000A/m2で得られたZn-0.9mass%Zr複合膜の3%NaCl水溶液中での腐食電流密度は, PEG無添加浴から得られた複合膜よりも低下していた。分極曲線より,カソード反応である溶存酸素の還元反応がPEG添加により抑制されることが判明した。
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