研究課題/領域番号 |
26289277
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
赤松 謙祐 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (60322202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ダイレクトメタリゼーション / ポリイミド / 電気めっき |
研究実績の概要 |
平成27年度は、電気めっきを絶縁樹脂に適応するという新規な発想に基づき、ダイレクトメタリゼーション法のメカニズム解明と界面構造最適化に取り組んだ。本プロセスにて還元、析出、成長する金属ナノ粒子層はすべて構造的、電気的に接続しており、樹脂との複合化により接触面積を増大させ、密着力の確保を図ることができる。まず、ナノ粒子サイズおよび複合層全体に対する金属成分の充填率と密着強度との相関を系統的に評価した。その結果、平均金属体積充填率25%程度の界面構造においてピール強度が1kgに到達することが明らかとなった。また界面ナノ構造を、ウルトラミクロトームを用いて作製した超薄切片を電子顕微鏡により観察したところ、銅ナノ粒子が不連続に接続したナノグラニュラー構造が密着力確保に不可欠であることを見いだした。 さらに、回路として利用する場合の伝送損失を最小現にするため、ナノ構造の薄膜化を試み、界面微細構造パラメータ(厚み、粒子サイズおよび充填率)と密着強度との相関性を明確化することに成功した。得られた銅/ポリイミド界面接合層は広い金属界面充填率範囲においてテープ剥離試験をクリアしており、高密着強度達成の可能性が示唆された。加えて、樹脂との親和性の高いニッケルを銅に合金化させ、複合化による改善を図るため、ニッケル・銅合金ナノ粒子の作製を試み、ナノ構造の組成制御と体積充填率制御に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の目標は樹脂と析出金属表面の界面微細構造と密着強度の相関の解明と、微細構造の最適化である。また、構造最適化にあたり、薄膜形成過程における物質収支(イオン含有量、析出量、深さ方向分布)について詳細に検討したところ、樹脂内部ではプロトンと金属イオンのイオン交換により電流が流れ、陰極で還元反応が起こり、イオン交換律速で薄膜が析出することを明らかにすることができた。また、陽極での反応についても電流効率の溶液濃度依存性から明らかとなった。上記の構造-密着性の相関関係の明確化を通じて薄膜形成メカニズムの一端を解明することができたことから、研究は順調に推移しているといえる。また、密着強度目標は申請時に1kgf/cmに設定しており、本プロセスでは最大1.2kgf/cmの密着強度が得られたことから、研究2年目の数値目標は達成したと考えている。 また、平成27年度は新たに金属の合金化による密着性向上にトライし、銅とニッケルの合金ナノ粒子の合成と組成制御に成功した。これは、界面ナノ構造化による密着性確保にあらたな概念を加える画期的な成果で有り、3年目の研究においてさらなる発展につながると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度は、これまでに確立した系面構造設計指針を基礎として開始する。本研究が将来的に実用化研究段階に移行するためには、本手法を生産性に優れたシステムと融合させる必要がある。最終年度では、予定通り過去2年において明確化した要素技術をパターニングプロセスに適用する。具体的には、サブミクロン~ミクロンスケールの配線形成を行う系として、金属マスク電極パターンの転写、およびナノ~サブミクロンスケールの配線形成を行う系として、陰極/樹脂界面を凹凸構造にすることによる部位選択的回路形成の2つのプロセスを行う。これら2つの実験系の構築により、最終的に微細ライン/スペース(最終目標:0.4~1.0ミクロン)を実現することを目標とする。 これまでの研究の推移をみても、オン・デマンド設計を可能にする本手法の原理的実現の可能性は高い。まず基礎検討手段として金属マスク電極を陽極として用い、微少領域における電気化学反応素過程と、これまでにデータ蓄積した比較的大面積で評価される反応素過程を比較検討し、陽極パターンの転写精度を最適化する。マスク電極の接触部にて発動する電気化学反応を制御し、表面構造と得られた回路パターンの形状整合性の関係を明確化する。課題としては、めっき反応後にイミド化させるために行う熱処理において密着強度が低下する現象が見られており、これを解決するために、27年度において見いだした合金ナノ粒子の樹脂との親和性を利用し、高強度密着を確保する構造の最適化をさらに進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に計画していた界面構造と密着力の相関評価において、当初計画における予想以上に構造最適化を達成することができた。そのため、電子顕微鏡観察用に予定していたダイヤモンドナイフや観察治具の必要数が当初計画を下回り、余剰分が乗じたため、今年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は本プロセスを用いて回路パターンの作製と解像度評価を行う。その中で、光アシストを利用した省エネルギー性に優れた回路形成にトライする予定であり、前年度未使用額はこの光アシスト用の金属マスクの購入に充てる予定である。
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