平成28年度は最終年度であり、樹脂内での物質収支プロセスを理解するため、イオン交換能を付与された樹脂内部におけるイオン交換速度を定量的に算出し、反応速度の最適化に取り組んだ。その結果、イオン交換速度の最大値は、樹脂を電解質溶液に浸漬した際の初速度に一致することが明らかとなった。改質したポリイミド樹脂の場合、最大イオン交換速度から算出した成膜速度は10マイクロメートル毎分に達し、本手法が高速成膜を実現可能であることを見いだした。 また、パターニングされた陽極を用いることで、カソード側に回路パターンを転写させることに成功した。その転写精度は電極間距離(樹脂の膜厚)および電流密度に依存し、電極間距離が小さくなるほど、また電流密度が小さくなるほど高解像度の転写が可能になることがわかった。電極間の電気力線の分布と膜抵抗をパラメータとした解析によりそのメカニズムを解明した。さらに電極反応条件の最適化を行うことにより、本手法を用いて「超薄膜型フレキシブル回路基板」作製の可能性が示唆された。 また、転写パターンの剥離により回路パターンを描画したポリイミド樹脂の作製に成功しているが、最終年度は金属/樹脂界面の密着強度増大のため、異種金属の段階的めっきにより界面微細構造を最適化するプロセスの構築を試みた。具体的には本手法によりまず銅めっきを施した後、アノードを取り外して樹脂をニッケルイオンを含む溶液に浸漬し、その後さらにめっきを施すことにより銅膜上部(樹脂内部側)にニッケルを析出させることにより密着強度の向上を図った。その結果、銅のみの場合に比較して密着強度は著しく増大することが明らかとなった。 以上の成果により、絶縁体である樹脂に電気めっきを施す新規プロセスにより、密着強度に優れた界面構造を有する異種材料接合、およびフレキシブル回路基板の高効率作製プロセスの構築に成功した。
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