研究課題/領域番号 |
26289278
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
北村 信也 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80400422)
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研究分担者 |
金 宣中 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40724430)
高 旭 東北大学, 多元物質科学研究所, 教育研究支援者 (80707670)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 製鋼スラグ / マンガン / 燐 / 抽出 / フェロアロイ / 浸出 |
研究実績の概要 |
本研究は、製鋼スラグからMnを燐と分離・抽出することを目的としている。その要素技術は、①スラグの硫化処理によるFeS-MnS-CaS系マット生成による燐の分離(乾式処理工程)と、②残渣スラグの浸出処理による燐の溶解・分離(湿式処理工程)である。 乾式工では、製鋼スラグを硫化してMnS-FeS系マットを製造する条件と、MnS-FeS系マットを酸化させMn/Feの高い酸化スラグを製造する条件を検討した。硫化実験では、製鋼スラグ組成の酸化物とCaS-FeS系マットの比を変えて反応速度を求めた。その結果、マットへ移行するMnの歩留を高くするとマット中のMn濃度は低くなった。一方、酸化実験では、硫化実験で得られた硫化物とFeO-MnO-SiO2系酸化スラグの酸化速度をスラグ組を変えて求めた。その結果、Mnの歩留は約30%で、MnO/FeOは0.4になった。これらの結果を反応モデルで解析したところ良い対応が得られた。そこで、プロセスをモデル計算でシミュレーションしたが、硫化工程、酸化工程とも多段製錬が必要で全体のMn歩留は45%、酸化スラグのMn/Feは0.46になるという結論を得た。 湿式処理工程では、実際の製鋼スラグ(石灰資材として市販されている肥料)を用いた試験を行った。実験は常温 のイオン交換水(2L)へ製鋼スラグ(20g)を投入し、浸出酸の添加・撹拌を繰り返し、溶出液の pH を 3 に コントロールした。浸出酸は 1mol/L のクエン酸 (H3C6H5O7)を用いた。その結果、Fe、Mn の溶出は約 10~15%であったのに対し、Ca と P の溶出は高く、Ca と P を含む C2S-C3P が選択的に浸出でき、残渣に Fe、Mn が濃縮したことが分かった。また、残渣の組成はスラグの鉱物相分率と各相の組成から計算した、C2S-C3P以外の相の合計組成と良く一致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乾式工程は、製鋼スラグを硫化してMnS-FeS系マットを製造する条件と、MnS-FeS系マットを酸化させMn/Feの高い酸化スラグを製造する条件を確立させる課題に取り組んだ。その結果、実験方法を確立し反応速度を測定する事を可能にした。さらに、実験結果に基づきマットとスラグ間の反応速度をシミュレートするモデルプログラムを作成し、その有用性を実験結果との比較で明らかにした。さらに、このモデルにより、1000kgのスラグを処理する場合のプロセスシミュレーションを行い、その過程で、硫化工程、酸化工程とも多段製錬という新しい概念を生み出し、全体のMn歩留や酸化スラグ組成を予測できた。乾式工程の実験は終了する。 湿式工程では、実際の製鋼スラグ(石灰資材として市販されている肥料)をそのまま用いた試験を行った。その結果、浸出酸をこれまでの硝酸に代えてクエン酸を用いることでほぼ完全にC2S-C3Pが選択浸出された可能性が認められた。まだ正確な物質収支は計算できていないが、残渣の組成と、スラグ中のC2S-C3P以外の相の合計組成とが良く一致したので、選択浸出の可能性は高い。また、これまでのように53μm以下にまで微粉砕する必要がないため工業的展開の可能性も拓けた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、湿式工程を中心に実験を行う。前年度で選択浸出の可能性を得たが、製鋼スラグ系肥料には様々な組成や鉱物相を持つものが市販されているため、これらを収集して実験を行うことで、選択浸出するためのスラグ側の条件を明らかにする。前年度に用いたスラグにはfree Caが少なかったが、多い場合には中性水溶液によるCa除去工程が必要になる可能性もある。さらに、残渣はFe-Mn合金の原料とするため、その組成は重要であるため、浸出されやすい鉱物相条件だけでなく、適切な組成の残渣が出るようなスラグ組成・組織制御の指針を見出す。最後は、実験室で最適条件のスラグを合成し選択浸出と残渣の利用について結論を出す。また、水溶液側の条件も浸出酸の種類やpHを変化させ最適化する。浸出酸に求められるのは、リン酸カルシウムよりも低いCa濃度でCaイオンと化合物や錯体を形成し、水溶液中のCa濃度を低く保つ機能であり、クエン酸以外にも多くの有機酸に可能性がある。一方、水溶液に溶出したリンを、pHを変化させて沈殿・回収する実験も行う。 一方、乾式工程はモデル計算によりプロセス設計を行う。これまでの検討では硫化工程、酸化工程とも多段製錬を行うことで、全体のMn歩留は45%、酸化スラグのMn/Feは0.46にまで到達したが、これらの値は工業的には不十分である。そこで、フラックスの添加速度や撹拌条件を種々に変化させ、さらなる向上の可能性を追求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
乾式工程の実験はほぼ予定どおり行った。湿式工程は、当初、各種組成のスラグを実験室で合成して浸出試験に供する予定であった。しかし、すでに粉砕してある製鋼スラグが石灰肥料として市販されていることがわかったので、それを用いてマクロ的な挙動を把握する実験を優先した。また、他の研究課題において、浸出酸の影響がある事がわかったので、小型のビーカー試験により浸出酸を硝酸、クエン酸、ギ酸と変化させた基礎試験を行った。このため、予定より物品費の支出が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は最終年度でもあり、湿式工程で最適条件を把握するための実験を数多く行うため、これまでの未使用分も含めた物品費の支出を予定している。また、成果発表のための外国出張も予定している。
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