研究実績の概要 |
X-Sn-P (X = Mg, Ca, Ba) 系における実験については、まず、Ma-Sn-P系について取り組んだ。これまでの研究により、Ma-Sn薄膜をスパッタリングにより成膜した場合、Ma2Snの形成により、Sn粒子の粗大化をを抑制し、微細な組織を有することが分かっている。そこで、当初の実験予定を入れ替え、このMa-Snをリン化することで、MaSnP2薄膜の作製を試みた。Zn-Sn系と同様の条件でリン化を行ったところ、MgSnP2の形成は確認できなかった。そこで、当初の予定に組み込んでいた、平衡実験による等温断面図の作成を行った。500Cでの平衡実験試料のXRD結果からは、MgSnP2は確認されず、Sn, Mg(OH)2のみが同定された。これは、平衡実験後にはMgSnP2が形成されていたものの、分析する過程で大気中の水分と反応して分解したのか、そもそもMgSnP2が平衡相として存在しないのかいずれかは、現在のところ分からない。 一方、Cd-Sn-P系については、実験的に作成したZn-Cd-Sn-P4元系状態図から、500Cでは(Zn,Cd)SnP2が全率固溶系であることを確認した。さらに、状態図に基づいて溶液成長を行い、(Zn,Cd)SnP2バルク結晶を得た。この結晶に関して、拡散反射率測定によりバンドギャップを見積もったところ、1.35eVであり、固溶体形成によりバンドギャップが制御できることがわかった。次に、Cd-Sn膜のリン化によるCdSnP2成膜を試みた。当初、スパッタリングでCd-Sn膜の成膜を行う予定であったが、種々の検討の結果、Cdの毒性等を考慮して、水溶液からの電解めっきにより成膜を行うこととした。めっきで成膜を行う場合、特にSnに関しては、スパッタリングよりも平滑な膜が得られることを見出しており、今後、平滑なリン化物薄膜の作製が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、CdSnP2, (Zn,Cd)SnP2の成膜に注力する。リン化前の薄膜に対してXRDによる相同定、SEM-EDXによる組成分析および表面観察に加えて、レーザー顕微鏡による膜表面の凹凸の観察を行い、化合物形成と組織との相関を明らかにする。 また、リン化後の薄膜については、組織観察等に加えて、分光光度計による光学的特性およびホール測定による電気的特性を調べる。 他の系に関しては、平衡実験によりカルコパイライト相の存在を確認する。カルコパイライト相が確認された系に関しては、スパッタリングにより前駆体薄膜の作製を試みる。特に、Caを用いた系については、出発材料としてCa3P2を用いる必要があり、これを用いたときの化合物形成と組織との相関を明らかにする。また、これらのリン化物が大気中で取り扱い可能かどうかも調査する。以上により、ZnSnP2組織改善に対して有効な系かどうかを判断する。
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