研究課題/領域番号 |
26289293
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
児玉 大輔 日本大学, 工学部, 准教授 (50307807)
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研究分担者 |
松田 圭悟 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (60415792)
牧野 貴至 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (70455153)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオン液体 / 二酸化炭素 / ガス吸収・分離 / 平衡物性 / 輸送物性 / 再生プロセス / 溶液構造 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
イオン液体-二酸化炭素系におけるカチオンとアニオンの構造相違が溶解度に及ぼす影響について、振動管式密度計を備えた体積可変型溶解度測定装置や磁気浮遊天秤を用い検討した。例えば、カチオンのアルキル鎖や、アニオンのパーフルオロアルキル鎖の伸長に伴いCO2溶解度が増加することを明らかにした。さらに、流通式カロリーメーターにより、CO2が溶解した際の熱量データであるエンタルピーを測定した結果、エンタルピーとCO2溶解度には相互関係があることがわかった。 イオン液体の輸送現象について、研究室で独自開発した高圧転落球式粘度計を用い、イオン液体-二酸化炭素系や分子性液体も含む系のデータ測定を進めた。本装置は、全体積が25mLと従来型の測定装置と異なりコンパクトであるにも関わらず、粘度だけでなく、密度、ガス溶解度を、高精度に同時測定可能である。現在、CO2溶解時におけるイオン液体の粘度データ報告は、極めて少ないことから、学術的な価値に留まらず、CO2吸収分離再生プロセス設計時など実用面での要望に応えるものである。 イオン液体に分子性液体を混合した溶液について、NMR化学シフトや密度・粘度データからの解析を進めた。優れるCO2吸収特性を有するTFSAアニオンやBETAアニオンを含むイオン液体に、アルコールやエーテルを添加することにより、CO2吸収特性を著しく損なうことなく粘性を低下できることなどを明らかにした。 さらに、PC-SAFT状態方程式を用いてイオン液体の物性推算を行った結果、イオン液体-二酸化炭素系の相平衡挙動を比較的精度よく推算できた。また、プロセスシミュレータにより、高圧条件下におけるイオン液体のCO2物理吸収プロセスについて検討を進め、ガス吸収塔のシミュレーションモデルを構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在まで概ね順調に研究が進んでいるだけでなく、当初の研究計画では予定していなかったCO2吸収時におけるイオン液体の熱量測定や磁気浮遊天秤を用いたイオン液体のカチオンとアニオンの構造相違がCO2溶解度に及ぼす影響などの知見を得ることができているため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)イオン液体-二酸化炭素系の溶解メカニズム解明:二酸化炭素共存下におけるイオン液体のpVT、溶解度などを測定することで、ガス吸収特性データの蓄積を継続し、マクロ的なガス吸収効率について考察する。二酸化炭素吸収・再生時の粘度が化学吸収法と同程度の低粘性、吸収特性を有したイオン液体の合成を継続して進める。 (2)イオン液体の輸送現象解明:イオン液体の粘度データ蓄積を継続し、測定法の相違による偏差減少に努める。また、二酸化炭素共存下における粘性率変化から拡散係数など輸送物性を算出し、平衡物性と輸送物性との関連性について解明する。 (3)イオン液体-二酸化炭素系の熱力学物性推算モデル構築:溶液構造の分子動力学計算、溶媒分子の量子化学計算により、ガス吸収量の評価を進め、平衡物性と輸送物性との関連性について考察する。推算モデルと実験データとの比較検討を行い、溶解度など熱力学物性推算精度の向上を目指す。 (4)イオン液体-二酸化炭素系のミクロ構造解析:イオン液体と分子性液体からなる混合溶液の構造をNMR化学シフトや密度及び粘度データから解析する。MDでの計算結果を照らし合わせながら、分子性液体の組成依存性や原子間結合の形成状態の検討を行ない、イオン液体と二酸化炭素の相互作用について考察する。 (5)イオン液体-二酸化炭素系のプロセスシミュレーション・吸収分離再生試験:プロセスシミュレータにより、二酸化炭素物理吸収プロセスの評価を進める。また、ガス分離試験装置を利用し、ラボスケールの二酸化炭素吸収分離再生試験を実施する。大規模固定発生源の排出ガス前処理を想定した混合標準ガスをイオン液体に吸収させた後、精製ガス濃度から吸収液の化学的安定性を確認する。二酸化炭素吸収特性を維持した上で低粘性化を図るだけでなく、スケールアップの検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に開催された化学工学会第80年会(東京、芝浦工業大学)における発表の旅費として使用する予定だったが、年末から実父の体調が優れず、発表だけでなく学会に参加すること自体を取りやめたため。(3月6日に逝去)
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次年度使用額の使用計画 |
9月に開催される化学工学会第47回秋季大会(札幌、北海道大学)での発表の旅費として使用する予定である。
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