炭素から構成されるナノシートであるグラフェンの発見以来,2次元構造体,特に数原子層厚さのナノシートが注目されている.ナノシートは大きさが数マイクロメートルにもなるのに対して,厚さが数ナノメートルと構造異方性が高い.よってナノシートは,その構造に由来する特異な物理・化学的特性を有する.本研究では,ナノシートの触媒への応用を想定しているが,ナノシートの構成原子のほとんどが表面に露出しているため,ナノシートを触媒に用いた場合,金属資源の使用量削減に貢献できる.また極めて薄い2次元構造であるため,比表面積が大きく,反応物および生成物の拡散が容易であるという特徴を有する.よって高機能触媒の開発が求められる現状を鑑みると,触媒のナノシート化は極めて重要な技術課題である.これまで金属酸化物ナノシートは層状金属酸化物の剥離によるトップダウン手法により調製されてきた.しかしこの方法では,層状化合物を形成しない金属酸化物のナノシート化が不可能である.本研究ではボトムアップによる金属酸化物ナノシートの調製法開発を目的に,酸化グラフェンをテンプレートに応用した.前年度までの研究で,乾燥した酸化グラフェンをシクロヘキサンと金属アルコキシド中に分散させ,オートクレーブ内で加熱すると,金属酸化物ナノシートとグラフェンの複合体が生成することを実証した.しかし金属アルコキシドは反応性が高く,また金属アルコキシドとして入手できる金属の種類が限定される.このため,金属の硝酸塩や塩化物塩からの酸化物ナノシートの調製が好ましい.そこで金属硝酸塩や塩化物塩からの金属酸化物ナノシートの調製を試みたところ,マンガン,鉄,およびセリウムの酸化物ナノシートの調製に成功した.さらにマンガン酸化物ナノシートは酸素還元反応に高い活性を示すことも見出した.
|