【背景】細胞膜においてコレステロールと飽和脂質に富んだ相分離ドメインが形成され、脂質ラフトとして信号伝達に重要であると考えられている。実際の細胞膜では、負電荷脂質も多く含まれており、カチオンとの相互作用が、相分離に重要である可能性が高い。我々は、人工細胞膜を用いて、荷電脂質膜に金属イオンやポリアミンを加えた場合の相分離挙動を観察した。 【方法】負電荷不飽和脂質(DOPG)と中性飽和脂質(DPPC)を混合し細胞サイズリポソームを作成した。このリポソームに、1価(NaCl)、2価(MgCl2)の金属イオン及び3価(Spermidine)、4価(Spermine)のポリアミンを加えた際の相分離構造の変化を、蛍光顕微鏡で観察した。 【結果・考察】脂質が共に中性であるDOPC/DPPCの系と比較して、負の電荷を持つ不飽和脂質を含むDOPG/DPPCの系は、脂質頭部基の電荷による反発で相分離が起こりにくいことが分かった。室温で相分離しないDOPG/DPPCの系にカチオンを添加することによって、相分離が引き起こされた。また、多価のカチオンであるMgCl2やポリアミンを添加した際には、1価のNaClに比べて1万分の1以下の非常に低い濃度でも相分離を引き起こすことが観察された。 価数が大きいほど低いカチオン濃度で相分離が誘起されるが、価数の増加と濃度の間に比例のような単純な関係は見られなかった。 このことから、価数だけではなく、カチオンの電荷密度や水との親和性が、相挙動の決定に大きく影響していると考えられた。
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