研究課題/領域番号 |
26289318
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
木野 邦器 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60318764)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / 遺伝子 / 酵素 / 生体分子 / 生物・生体工学 / ペプチド / アミド化合物 |
研究実績の概要 |
ペプチド合成酵素の酵素学的知見と産業利用を促進するために、立体構造解析およびアミノ酸配列情報から活性領域と推察される部位への変異導入と評価によって、構造と機能の関わりを調べ、その戦略の有用性を検証した。 まず、ポリグルタミン酸合成酵素RimKの結晶化条件を種々検討し、単結晶の取得に成功した。X線回折により立体構造を決定し、Arg189が基質認識に関与していることを見出した。 アミノ酸リガーゼ(Lal)における構造と機能相関の解析を目的に、結晶構造が解明されているLal の立体構造情報に基づいて部位特異的変異酵素を作製し、基質特異性及び活性を評価した。具体的には、塩基性アミノ酸をN末端基質として認識してジペプチドを合成するTabSと立体構造既知のLalであるYwfEのN末端基質の認識領域周辺の比較を行った。TabSの活性中心を推定し、その近傍のアミノ酸残基と基質となるアミノ酸の静電相互作用を踏まえて変異体をデザインしたところ、ある変異酵素では予想通りLysに対する基質親和性が著しく向上し、Lysとアミノ酸Xaaを基質とした場合にはLys-Xaaのみを生成するようになった。一方、N末端基質としてMetを強く認識するBL00235では、その立体構造情報を基にC末端基質の認識活性が変化するような変異酵素をデザインしたところ、塩味増強効果のあるMet-Glyの選択的合成に成功した。 また、非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)由来のAドメインを用いたアミド化合物の合成に関しては、Trpと各種アミン化合物との反応で生成するアミド化合物をHPLC及びMS/MSで確認するとともに、基質特異性の異なるAドメインへの変更によって合成可能なアミド化合物が多様化し、拡張できることを明らかにした。さらに、NRPSのAドメインの基質特異性評価法として、簡便かつ低コストの比色分析法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ペプチド合成酵素及びポリアミノ酸合成酵素の結晶化ならびにX線回折による立体構造解析は、オリゴペプチド合成酵素BL02410とポリグルタミン酸合成酵素RimKで実施し、いずれも高純度精製と結晶化に成功し、多くの知見を蓄積することができた。とくにRimKでは結晶生成条件の最適化によって単結晶の取得に成功し、そのX線回折試験で良好な回折像を得ることができた。取得した回折像から分子置換法による解析によって立体構造の決定に至り、RimKの反応特異的な情報と基質認識部位の特定、及びRimK改変戦略の方向性を得ることができた。 一方、立体構造既知のアミノ酸リガーゼ(Lal)との比較解析によってN末端及びC末端基質の認識に関わる部位を予測し、デザインした変異体でそれを実証した。N末端基質として塩基性アミノ酸を認識するジペプチド合成酵素TabSでは部位特異的変異の導入によってLys-Xaaのみを生成する選択的合成酵素の創製に成功した。塩基性アミノ酸を含むジペプチドは工業的にも有用であり、またこの酵素によって合成可能なLys-Cysは、不安定で溶解性の低いアミノ酸であるCysの安定化による工業的利用拡大にも大きく貢献するものと期待される。 また、これまでに機能性ペプチドの評価対象とならなかったジペプチドのライブラリーをLalの特性を生かして構築することができた。さらに、官能評価法を有する香料会社との共同研究によって塩味増強作用を示す新規ペプチドMet-Glyの効率的な探索に成功した。さらに、上述のような構造と機能の相関に基づくBL00235の改変によって、MetとGlyからMet-Glyの選択的な合成を可能とする生産プロセスの開発にも成功し、その成果によって2015年度日本農芸化学会のトピック賞を受賞するなど、具体的な応用展開を初年度に達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
RimKの単結晶の立体構造は決定できたが、酵素機能の任意改変の実現には、基質と複合体を形成したRimKの立体構造情報が必須であり、Mg、ADPなどの補因子や基質との複合体の結晶化ならびに立体構造解析を推進する。その他、オリゴペプチド合成酵素BL02410の結晶化と立体構造解析を行い、ペプチド合成酵素の基質特異性改変や鎖長制御機構の解明を検討する。併せて、RimKの単結晶構造解析で予測した部位への変異導入効果を評価する。 平成26年度に得られた結果も踏まえ、既に立体構造情報が明らかになっているLalとの比較解析も継続し、構造活性相関における知見を蓄積する。立体構造情報からデザインされた改変型Lalを作製し、その機能性変化の検証を進め、Lalの高機能化と合成可能なジペプチドやトリペプチドの拡張を図る。さらに、ジペプチドの応用展開としてMet-Glyとは別の新たに見出した塩味増強作用を示す新規ジペプチドの選択的合成を可能とする酵素の改変を推進する。 ポリリン酸キナーゼとの共役反応によるATPの効率的供給を組み込んだ有用ペプチドやアミノ酸ポリマーの生産システムをin vitroの系で開発する。D-Ala-D-Ala生産ではポリリン酸キナーゼ反応を共役させたプロセスの有用性を既に実証したが、基質や生成物の分解経路を遮断する必要のあるジペプチド生産や膜透過性の課題を解消すべきポリアミノ酸生産への適用を図る。NRPSのAドメインを利用するアミド結合形成ではAMPからの効率的なATP再生が課題となるが、AMP及びADPの両方をリン酸化するポリリン酸キナーゼ(class III PPK2)に着目し、アミノアシルプロリン合成反応をモデルにATP再生系を伴う生産プロセスの開発を検討する。その他、アミド結合反応の拡張を目的にアシルCoA合成酵素を用いた脂肪酸アミドの合成法の開発に着手する。
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