ペプチド合成酵素の酵素学的知見と産業利用を促進するために、タンパク質立体構造情報およびアミノ酸配列情報から活性領域と推察される部位への変異導入とその評価によって、構造と機能の関わりを考察した。具体的な有用ジペプチドの効率的合成法の開発に成功するなど、その戦略の有用性を実証した。 抗酸化作用を有するイミダゾールジペプチドの酵素的合成法の検討を実施した。前年度、β-AlaをN末端基質として認識するL-アミノ酸リガーゼYwfEの改変酵素を用いてカルノシン(β-Ala-L-His)の合成収量の大幅向上に成功したが、アンセリン(β-Ala-3-methyl-L-His)とバレニン(β-Ala-1-methyl-L-His)の合成も確認することができた。そこで、あらためてYwfEの結晶構造情報とカルノシン合成での知見を踏まえて酵素の改変を検討した。カルノシンでは新たに創製した二重変異酵素で収率が向上し、アンセリンでは段階的に変異を導入して創製した三重変異体で収率94.7%と好成績を達成した。バレニンに関しては、反応物のLC-MS解析によりその生成を確認した。 ATP要求反応プロセスの工業化を想定し、前年度に引き続き、新規ポリリン酸キナーゼ(class III PPK2)によるAMPからのATP再生系の共役を検討した。L-Trp-L-Pro合成をモデルとした検討では、反応で蓄積するピロリン酸をリン酸へ分解することで反応速度を大幅に向上させることに成功した。 結晶構造解析では、ポリ-α-グルタミン酸合成活性を有するRimKにおいて結晶化条件を詳細に検討し、基質との複合体の結晶構造を分解能2.05Åで決定することができた。基質の有無による構造上の変化から、L-グルタミン酸以外のアミノ酸を基質とする可能性が示唆され、実際に、部位特異的変異を導入したRimKではGlyやSerなど新たな基質を認識することを実証した。
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