研究課題/領域番号 |
26289322
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10216806)
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研究分担者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助手 (20252794)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 宇宙環境 / 原子状酸素 / 複合環境 / 高質量分子 |
研究実績の概要 |
広範な宇宙環境での材料劣化現象を地上シミュレーションするには、これまでの原子状酸素のみの試験ではなく、異なるエネルギーで同時衝突する重元素を含んだ分子衝突を再現できるシミュレーション技術が必要である。さらに実宇宙環境を完全には再現できない現状では、地上試験環境で定量性を担保するには表面科学をベースにした原理的な理解が不可欠となる。本申請では、①世界初となる非熱平衡混合原子・分子ビームを発生させる技術開発、②放射光などの先進表面分析の導入による複雑反応系における化学反応メカニズム解明と定量推定精度向上、さらに、③衛星搭載用センサーとその地上キャリブレーション法を同時開発することによる超小型衛星等を用いた高信頼性日本型非回収宇宙材料曝露試験法の確立を目指す。これらにより、世界に先駆けてサイエンスに立脚した広範な宇宙環境に適用可能な軌道上曝露試験の基盤技術を確立することを目標としている。 研究初年度である平成26年度には多成分ビームを形成するためにPSVへ任意の組成の混合ガスを供給可能な高精度ガス混合器を新たに導入し、その動作確認とオペレーション条件の最適化を行い、27年度には各種条件でMAPMix9000システムを実際に運用し、形成されたビームのキャラクタリゼーション結果から安定性評価と運用条件の最適化を行った。その結果、バッファータンクの設置と予備運転により所定の混合比の原子ビームを安定にPSVからノズル内に導入できることが確認された。さらにArとO2を混合させることによりレーザーを照射しない場合には分子量に依存する熱平衡状態のビームが形成されるが、レーザーを照射することにより分子量に依存しない同一速度(異なるエネルギー)の非熱平衡状態の超熱原子ビームが形成されること等の知見が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混合ターゲットガスを用いた場合には、レーザープラズマ内の原子・イオン過程が複雑化するため、ガス種によりレーザー解離・加速メカニズムが異なることが考えられる。そこで、ガスの組成や混合比を変化させた場合に、各成分がどの程度のエネルギーまで加速されるかを測定し、宇宙環境実験に適した速度分布を得られる条件を探索することを目標として、平成26年度には高精度ガス混合システムを導入した。本研究で導入したデンマーク製Dansensor社 MAPMix9000システムは圧力コンパレータにより自動的に混合割合を調整できる特徴を有しており、長時間照射には適した特性を有するシステムである。 それに引き続き、平成26-27年度にかけては各種条件でMAPMix9000システムを実際に運用し、安定性評価と運用条件の最適化を行った。その結果、バッファータンクの設置と予備運転により所定の混合比の原子ビームを安定にPSVからノズル内に導入できることが確認された。さらにArとO2を混合させることによりレーザーを照射しない場合には分子量に依存する熱平衡状態のビームが形成されるが、レーザーを照射することにより分子量に依存せしない同一速度(異なるエネルギー)の非熱平衡状態の超熱原子ビームが形成されることが明らかになるなど、運用上有益な多くの知見が得られた。現在、酸素分子の解離状態に関する解析等を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
MAPMix9000システムの導入と運用条件を確立した平成26年度、ビーム形成評価を行った平成27年度に引き続き、平成28年度にはノズル内に導入した混合ガスにレーザーを照射し、超熱混合原子ビームの形成とそのキャラクタリゼーションを行う予定である。これまで用いてきた飛行時間スペクトル測定に加えて、レーザープラズマから放射される極端紫外線の分光分析により、プラズマ内で形成される多価イオン種等の解析を併用することで、混合ガスレーザープラズマの解析とビーム形成特性の関連付けを行う。 超低軌道における重分子衝突についての詳細分析には、重分子の持つ運動エネルギーあるいはモーメンタムトランスファーによって吸着分子を含んだ表面反応系における化学反応を詳細に解析する必要があるため、光電子分光法やX線吸収スペクトル等のビーム励起表面反応を用いた最新の極表面分析を適用する予定である。さらに応用物理学会ビーム応用大分類の代表を務める立場を利用して、国内の分子線研究者との連携による表面科学からのアプローチを強化する。これによりCollision-induced desorption, Collision-induced reactionなど新しい化学スキームによる宇宙機表面反応の理解を進める。 一方、高度600km以上の低地球軌道上層では原子状酸素に加えてヘリウムや水素が主要な成分となる。そこで原子状酸素にヘリウム等が同時衝突する環境が本装置を用いて地上で再現できるかを確認し、MISSEやハッブル宇宙望遠鏡、太陽観測衛星「ひので」等が周回する宇宙環境で報告されている材料劣化現象を再現するための材料試験を地上で実施できる環境を整備する。これにより中-高高度地球周回軌道における中性粒子誘起材料劣化現象についての基本的知見も得ることができると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年に開催が予定されていた本分野における国際会議ICPMSE-12が、ホスト機関の都合により2016年開催にずれ込んだため、そのための旅費を2016年度に残したこと、また、当初本申請で更新を予定していたイオン検出器(浜松ホトニクスH8285)が生産中止になっており、再生産の可能性について現在メーカーと協議中であるために2015年度の使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
ICPMSE-12関連の旅費は2016年度に支払いが完了する予定である。H8285はメーカーとの協議の結果次第である。現在代替品についても調査中である。
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